シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP第6話:これからの船と省エネ技術

Vessel Manager 令官の海事点描

2015年4月6日

第6話:これからの船と省エネ技術

3月や4月は歓送迎会のシーズンで、仕事の仲間や日本に帰ってしまうご家族と楽しいお食事会を催す機会が多いのではないでしょうか。楽しい会で食が進み、「あれズボンが」、「まぁスカートが」、などとお悩みをお持ちの方もいらっしゃるでしょうが、かく言う私もその1人。そろそろダイエットを、と思っておるところです。

 

話がそれているようですが、実は船の話につながります。船も食事である燃料を食べ(消費し)なければ動くことは出来ませんが、近年は、「船のダイエット」も注目されるようになりました。

 

船の燃料消費量削減

船の食事は燃料になります。車で言うガソリンですが、船の燃料はガソリンよりやや質の悪いC重油を消費する運航が一般的です。船の1日の食事量、すなわち、燃料消費量は、大型のコンテナ船ともなると、200トン近くになります。人間なら1日に牛乳1リットルも飲めばお腹を壊しますが、コンテナ船は1リットルの牛乳パックで20万本分の燃料を食べなければ止まってしまうのです。

 

船の燃料消費量を削減することは、船の運航上のコストを減らすため、経済的な面から外せない要素です。しかし一方、近年は京都議定書などで取り決められたCO2排出量の削減など、経済だけでなく環境的な面からも省エネ運航が求められてきています。

 

このように、いかに少ない燃料で効率良く走れるか、すなわち、いかに燃費の良い船を造る(ハードウェア的な省エネ技術)か、また燃費の良い運航をする(ソフトウェア的な省エネ技術)かを目指し、ハード、ソフトの両面から様々な取り組みが実施されています。

 

省エネ船

人間は走るより歩いた方が省エネですが、船はそう一筋縄ではいきません。そもそも、船は、どのぐらいのスピード(船速)で走るのかによって船の形(船型)が決まっています。これは、水に浮かんでいる船が水から受ける抵抗を最小限に抑えるためで、船速に応じて変化する水の抵抗を設定船速において出来るだけ小さくなるよう船型を計画するからです。ですから、ゆっくり走れば燃費が良くなるという保証もなく、逆にオリジナルの船型でゆっくり走ると、かえって燃費を悪化させる危険性もあります。

 

実は近年、特に「大食漢」のコンテナ船が設計当初の想定船速から遅めの船速で運航するケースが増えてきました。そこで、この大食漢の消費量を少しでも減らすべく、現在の実運航船速時にはどのような船型がベストなのか、また今の船型から最小限の改造で最大限の効果を得られる改造部分はどこなのか、などを検討し、実際に船を改造するプロジェクトも出てきており、この改造による効果が20%以上あったケースもあります。

 

この他にも、効率の良い主機(エンジン)や、プロペラの後ろの水の抵抗を軽減する付加物なども開発されています。

 

省エネ運航

船自体のハード面からのアプローチもありますが、ソフト面からの取り組みも種々実施されています。

 

船は一般的に目的地と到着予定日が決められており、前の港を出帆して次の港に向かう際、この次の港までの距離と到着予定日から逆算して船速を計画します。距離÷時間=速度、ですね。

 

これまでは、目的地に着くことを最優先して、あまり船速の細かい調整に注目しておらず、例えば「20ノットx3日+1日予備」、でも、「15ノットx4日でJust in time到着」でもどちらでもよし、としていました。

 

ノット : 船速を表す単位。1時間に1海里(=1852メートル)を進む速度。約2km/h。

ところが、計算は割愛しますが、船が走る際の燃費は「船速の3乗」に比例する計算式になり、つまりは船速が1ノット違うだけで、ずいぶんと燃料消費量が変わってくるため、船の燃費を考えた場合、これまでのように「2通りのどちらでもよし」というわけにはいかなくなってきます。また、船は一定の船速の方が、船を動かしている機械やこの調整に要する燃料などの都合によっても効率良く走れます。そこで、より燃費の良い運航を目指すために、もちろん予定日到着は前提として、気象や海象、風向風速、また船の状態等々、色々なデータを活用し、できる限り省エネ運航が出来るよう、陸側からサポートする取り組みも実施されています。

 

今回ご紹介した内容の他にも、ハード、ソフト両面から省エネ船と省エネ運航に向け、様々な取り組みが実施されています。これからも船や船に携わる人間が弛まぬ努力を重ね、いつの時代も人々のためになるような船が大海原を走り抜けられればと思います。

 

半年間ご愛読ありがとうございます。皆様が少しでも海運や造船に興味をお持ち頂けましたら幸いです。

昨年5月にトゥアスのジュロン造船所で実施された就航コンテナ船の船型改良工事。船首部で波を起こし抵抗を打ち消す「バルバスバウ」を船速に適した形へ改造し、実運航でのCO2排出量を削減する。

文=令官史子(れいかん・ふみこ)

日本郵船グループのNYK SHIPMANAGEMENT PTE LTDでVessel Manager(船舶管理人)や就航船管理の業務にあたっている。2013年の来星までは、約9年間新造船業務に携わった。
九州大学工学部船舶海洋システム工学科卒業、同大学院都市環境システム工学専攻。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.277(2015年04月06日発行)」に掲載されたものです。

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