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2021年10月5日

逆風下のアセアン航空業界:フィリピン航空が破産申請 ~他業種参入で経営多角化めざすLCCも

大きく変化するアジア。人口増加の著しいこの地域が近い将来、巨大市場となり世界経済をけん引する日が来る――。その地殻変動を探るべく、旬のニュースとそれを裏付けるデータで、経済成長著しいASEAN諸国の「今」を読み解いていきます。

 新型コロナの感染拡大が続くアセアン各国で、航空各社の経営状態が一段と悪化している。すでに昨年の時点でタイ国際航空が経営破綻を発表しているが(現在リストラ等を通じて再建中)、今月に入りフィリピン航空が米連邦破産法の適用を申請*。運航を継続しつつ再建を目指す方針だが、フラッグ・キャリアの相次ぐ経営破綻によって、業界全体の苦境が改めて印象付けられた格好だ。こうしたなか、マレーシア拠点の有力LCCであるエアアジア・グループは、他業種への参入による経営の多角化に注力している。

 ※債権者の多くが国外にいる関係上、本国のフィリピンではなく米国で破産法を申請。

 まず、フィリピン航空の破産申請を「亜州ビジネスASEAN」ニュースで確認しておく。
 

フィリピン航空が破産申請、運航は継続

 フィリピン航空は4日、米国で連邦破産法11条(チャプター11)の適用を裁判所に申請したと発表した。運航を継続しながら経営再建を進める。新型コロナウイルス流行で旅客需要が落ち込み、苦戦を強いられていた。
 
 再建に向け、債権者とは20億米ドルの債務削減で既に合意した。また、大株主や国内の商業銀行から5億500万米ドルの出資・融資を受け、海外の新たな投資家から1億5,000万米ドルを借り入れることも決まっている。
 
 同社の親会社であるPALホールディングスには、2019年からANAホールディングスが出資。業務・資本提携を結んでいる。[亜州ビジネスASEAN 9月6日付ニュース]
 


 
 フィリピン航空に対しては、以前から経営の維持が困難との見方が強まっていた。今年6月中間期の決算でも、165億ペソ(日本円で約360億円)の赤字を計上したばかりであるため、今回の経営破綻はある意味で織り込み済みといえるのかもしれない。財務体質が大幅に悪化していることに加え、収益環境に好転のメドが立っていないことも痛手となる。実際、フィリピンの航空旅客数はコロナ禍の20年に前年比78%減の1,313万人まで縮小。21年はさらに冷え込み、1~6月の時点でわずか296万人にとどまる状況だ。
 

 
 すでに多くの航空会社が経営危機に見舞われる状況だが、こうした苦境を脱すべく本業以外の分野に活路を見出す動きもある。象徴的なのは、前述したようにエアアジア・グループによる他業種への参入だ。
 
 同社はすでに、マレーシアやシンガポール、タイなどで食品の宅配サービスを手掛けているが、新たに配車事業へ進出。今年7月にインドネシアの配車大手、ゴジェックのタイ事業を買収したほか、8月には拠点のマレーシアでも同ビジネスに参入した。「エアアジア・ライド」と名付けられた新ビジネスは当初、自社便の利用者をはじめとする空港送迎に重点を置くため、本業とのシナジーも期待できる(エアアジア便マイレージでの支払いも可能となる)。確保する運転手は目先1,500人だが、来春をめどに6,500人規模に拡充させたい考え。また今後はマレーシアにとどまらず、アセアン各地にも事業エリアを広げていく方針という。
 
 アセアン各地の配車事業は競争激化が予想されているため、エアアジアの参入がスムーズにいくかどうかは不明だが、経営多角化に向けた努力は大いに評価されるべきであろう。本業とのシナジーが生まれれば、顧客の囲み込み効果も期待できるはずだ。
 
 もっとも、こうした動きは本業が立ち行かなくなったことの裏返しでもある。本格的な業績の持ち直しは、やはりコロナの収束による航空事業の回復を待つしかないだろう。
 

亜州リサーチASEAN編集部
亜州ビジネスASEAN

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