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2021年4月13日

Q.【2021年施行】シンガポール個人情報保護法② 〜正当な利益の例外〜

2021年2月1日施行シンガポール改正個人情報保護法 〜目的通知義務と同意取得義務の例外「正当な利益の例外」〜

Q. 今回のシンガポールの個人情報保護法の改正で、「個人情報を取得・利用・開示する場合に、あらかじめ本人の同意を取得しなければならない」という要件が一部緩和されたと聞きました。具体的な内容を教えて下さい。
 
 シンガポールの個人情報保護法では、原則として、個人情報を取得・利用・開示する場合、あらかじめ、その目的を本人に通知した上で、本人から同意を取得しなければならないとされています。今回の法改正により、この目的通知義務と同意取得義務が緩和されました。ただし、プライバシーポリシーへの明記や査定プロセスなどの手順を踏む必要があるため、注意が必要です。
 

概要

 今回の法改正では、本人の同意を得ずに個人情報を取得・利用・開示することについて「正当な利益」が存在し、その「正当な利益」が「本人の不利益」を上回るような場合に、目的通知や同意取得をしなくても、個人情報を取得することができるようになりました。これは、一般的に「正当な利益の例外」と呼ばれています。
 
 具体例には、次のようなケースがあります。
 


 保険会社であるA社は、保険金の不正利用を防止するために、顧客の過去の保険金請求に関する個人情報を取得する予定です。しかし、A社がこのような目的をあらかじめ顧客に伝えると、A社の個人情報の取得について、顧客が同意しない可能性が高いと考えられます。この場合、A社は、顧客の同意を得ることなく、顧客の過去の保険金請求に関する個人情報を取得することができるでしょうか。


 
 このケースの場合、保険金の不正利用を防止するという「正当な利益」が存在し、その「正当な利益」が、「本人の不利益」を上回ると考えられています。したがって、一定の要件を満たすことを条件に、A社は、顧客の同意を得ずに、顧客の過去の保険金請求に関する個人情報を取得することが認められるようになりました。
 
 他にも、社内不祥事の予防や調査、会社の情報漏洩の予防や調査など、会社のコンプライアンス上、必要となる場合にも本人の同意を得ずに個人情報を取得・利用・開示することが認められるようになりました。
 

正当な利益

 シンガポール改正個人情報保護法は、次のような場合に「正当な利益」を認めています。
 
 (1) 評価、 調査、手続のために必要な場合
 (2) 会社の債権回収や、債務の支払いのために必要な場合
 (3) 法的助言を受けるために必要な場合
 (4) 信託を利用するために必要な場合
 (5) 家族がサービスを利用するために必要な場合
 (6) 雇用に関して必要な場合
 (7) 信用調査機関が信用情報報告書を作成するために必要な場合
 

必要な手順

(1) プライバシーポリシーなどへの明記

 今回の法改正により認められた「正当な利益の例外」を利用するためには、まず、あらかじめプライバシーポリシーなどに、「正当な利益の例外を根拠に個人情報の取得・利用・開示する場合がある」旨を明記する必要があります。
 
 例えば、上の具体例の場合には、「保険金の不正利用を防止する目的で、顧客の過去の保険金請求に関する個人情報を取得・利用・開示することがある」旨の記載が必要となります。
 

(2) 査定プロセス

 次に、実際に「正当な利益の例外」を根拠に、個人情報を取得・利用・開示する場合には、次の手順に従います。
 
 a. 「正当な利益」を特定する
 b. 「本人の不利益」を査定する
 c. 「本人の不利益」より「正当な利益」の重要性が上回ることを査定する
 
 具体的な査定方法については、シンガポール個人情報保護法保護委員会(Personal Data Protection Commission)によって発行されている 「Assessment Checklist for Legitimate Interests Exception」に詳細が記載されていますので、こちらのリンクからご確認ください。 

 

最後に

 シンガポール改正個人情報保護法では、目的通知義務と同意取得義務に関し、今回紹介した「正当な利益の例外」の他に、「事業改善目的の例外」ついても認められるようになりました。次回は、「事業改善目的の例外」について紹介します。
 

日本法弁護士・シンガポール外国法弁護士 山本裕子

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