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来星記念インタビュー

2008年10月20日

「ギャップを乗り越える『視点』を学ぶ」

対談(嶋津良智×細谷功)

hosoya

細谷功(ほそやいさお)氏

サガティーコンサルティング
ディレクター

ザカティーコンサルティング株式会社ディレクター、ビジネスコンサルタント。8年間エンジニアとして働いたのちコンサルティング業界に転身、業務プロセス、組織、ITの改革にクライアント企業と取組んでいる。

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嶋津良智(しまづよしのり)氏

リーダーズアカデミー
CEO

株式会社リーダーズアカデミー代表取締役社長兼CEO。シンガポールを拠点に、日本、シンガポール、アメリカで会社経営に参画する傍ら、独自メソッドの「上司学」を打ち出し、次世代リーダー育成に努める。

コミュニケーションギャップ

AsiaX

シンガポール在住の日本人ビジネスマンが抱える悩みの中で、特にコミュニケーションギャップで悩む方が多い様です。

嶋津

異文化コミュニケーションギャップは、どこの国、都市でもある問題。いろいろな国の都市を回って感じることは、国や人種は違っても、人間の根本は変わらないということです。あまり意識しすぎるとよくない感じもします。自分自身を冷静に見つめる目、僕自身は「第三の眼」とよんでいますが、自分は伝えたと思っていても、実は、相手には伝わっていなかった、ということはよくあるので、自分のことを客観的に見る気持ちがもう少し必要なのかもしれません。

細谷

昔も今も、日本、欧米、シンガポールでもどこでも変わらない。ビジネスのほとんどが、コミュニケーションの上に成り立っていて、その問題を日々解決するのがビジネスともいえます。ですから、コミュニケーションの問題は発生して当然だと思っています。根本は変わらない、というのに同感です。国、年代、立場、性別というバックグラウンドによって、表現方法が違うというだけだと思います。

AsiaX

確かに普遍的なことです。では、現在、特にコミュニケーションギャップについて多く語られる理由は何でしょうか。

細谷

では何故現在か、ということで言うと,これまで日本の価値観の共通認識のもとに成り立っていたものが、グローバル化がすすんだこと、インターネットによるコミュニケーションの拡大によって、自分の思い込んでいることが実はそうでないことがわかったり、または、会社での終身雇用が崩れ、転職組などが社内に増えることも、価値観の認識の共通部分が減ることに繋がり、一層ギャップが広がっているからでしょう。

AsiaX

細谷さんの著書でお馴染みの、「地頭力」は、コミュニケーションにどのように発揮できるのかを教えて下さい。

細谷hosoya2

地頭力とは、つまり考える力のことで、具体的に言うと、結論から考える、全体から考える、簡単に考える,という思考プロセス力として定義しています。コンサルをする、何かイベントを企画する、旅行の予定を立てる等、何かを計画するということは、つまりその3つのプロセスで構成されています。それをコミュニケーションに当てはめると、まず、結論から考えるには、こちらから結論へ向って考えるではなく、結論をまず置いてみて、そちらから逆向きに考えるということです。まず相手に何を伝えたいか、何が伝わっていれば成功であると定義した時に、そのために何を話さなければいけないのか、相手視点から見ることです。それをビジネスに当てはめれば顧客視点になるでしょう。自分を含め普通の人間は、本能的にそうはできないようになっているので、どんなに心がけてもなかなか十分にできないものです。全体から考えるという発想は、自分の思い込みを一旦クリアにして考えましょうということです。育った環境や国が違ったりすると、群盲象をなでるといいますが、自分が普通に言っていることを相手が全然異なる捉え方をしていることがある。例えば、日本ってこうだよね、といったとしても、都会と地方に住んでいる人ではイメージが違うでしょうし、言葉一つとっても解釈が違うので,私が話しているのはこっちです、その都度確認することで思い込みから逃れられる。コミュニケーション上の共通の土俵で話すには、一度ぐっと引いたところから全体を眺める必要があります。

簡単にするというのは、相手の求めていることで、自分が話すことのポイントは何であるかを突き詰めていくと、案外単純なことに行き付く、ということです。その反対は、自分が詳しいことになると相手が期待していること以上のことを長々話してしまうような状況に陥るようなことです。

嶋津

以前、細谷さんが、「相手の期待値を常に確認しよう」、とおっしゃいました。なぜなら、人の期待値は常にかわるからだと説明されて、私の中にすとんと落ちました。自分自身、部下に期待することが日々変わっていることに気がついたし、部下にも自分の期待値が変わったことを理解して欲しい。レポートの作成依頼をした部下が、数日たっても何も言ってこないとすると、そのまま出来上がったものに対して、そんなのを期待していたんではない、となるわけです。レポートを作っている段階で確認作業をすることで、ギャプが少なくなる。

細谷

人の期待値というのは、コロコロ変わるものなんだと思っておくといい。

嶋津

物事を良くしようと思っていれば、当たり前の変化なんですよね。

AsiaX

上司に都度確認する、つまり、何度でも臆せず話しをする機会を作れ、と伝えることになりますよね。

細谷

私なら、質問してこない人をみていると、わかってないんだと思いますね。日本では、伝統的に賢い人は質問しない、手を挙げない、みたいな傾向がありますよね。賢い人程質問するという意識にする必要があります。世界に出て行く、コミュニケーションギャップを解消する根本的なところはそういう意識にあるかもしれない。

AsiaX

コミュニケーションギャップを埋めるためのポイント、日々できるトレーニングを教えて下さい。

細谷

相手の立場から全体を考えて思い込みをなくそうとすると、コミュニケーションの基本、やり方のベースは、多頻度で短いコミュニケーションのサイクルですることが重要です。少ない回数で長いとなると、期待値が変動する中で、その変化の幅が大きくなった状態でコミュニケーションをとることになり、またギャップが大きくなる。少しずれたら修正するということを繰り返していると、自分がいかにわかってないかに気付く。それを知ることが重要です。頻度をあげる、その代わり時間を短くする、日々の訓練、心がけが大事かなと思います。こんな状態じゃ上司に見せられない、と部下が思うようでは危険で、そうならない雰囲気作りが大事でしょう。

嶋津

ぼくは、たくさんの視点で物事を考えよう、と話します。自分の思い込みでやろうとすることを防ぐために、部下の視点、上司の視点でどう考えるか、尊敬する人の視点、例えば、この件を松下幸之助さんだったらどう考えるか、逆説視点、長期的及び短期的視点、平面多面的な視点、抽象的と具体的に考えるとどうなるのか、この6つの視点をもって物事をみるといろいろ違った見方ができる。

p1-2

タイムマネジメント

AsiaX

タイムマネジメント上でのアドバイスはありますか?

嶋津

私は怠け者ですから(笑)、いかに自分の怠け心をコントロールするか、ということを考えていて、「レベレッジ」シリーズの著者である本田直之さんが紹介するやり方で、自分の時間割をつくってその通りにやって行く、という手法に出会い、それを実践しています。人と会う、考える、身体を鍛える、などそれぞれ大枠の時間を決めておいて、人と会う時間枠にミーティングを入れたり、考えるべきことは考える時間枠に入れていく。まず大枠で時間を捉えてますから、僕のスケジュールは5年先迄決まっています。時間を自分がコントロールすることをやってみようと試みてます。

また、外国に来てからランチの時間を大切にしようと心がけてます。これまでは、一人になる時間に当てていたのですが、それももったいないので、できるだけランチの時間に誰かとコミュニケーションを取る様に、その時間も上手に使うようにしています。もちろん、ビジネス上、相手もいることなので、完璧に時間割通りには行きませんが、習慣にすることで、より一層時間管理にドライブがかかる様になりました。

細谷

時間管理で重要なのは、何事にも優先順位付けをすること。結論から考えることがそのために必要な考え方です。最終的に自分はどうしたいのかというのを明確に描くこと。1年後、例えば、1時間後の会議の後、その最終到達地点に辿り着くために、何が必要かを考えて優先順位をつける。余計なことをしているのが意外と多い。会議が終了した時の理想的な状況が皆で共有できていれば、議論が脱線した時に、それは今話す必要がないと判断できる。最終的にはどうなっていたいのかを考えれば、自動的に限られた時間を一番有効に使える方法が出てくるんじゃないかと。人生に応用できると思いますよ。

嶋津

私は、月一回、自分がどう時間を使ったか、必ず振り返ります。ミーティングをして時間を使う必要はなく、メールや電話ですんだな、など、そこから反省が生まれますので、更に翌月の時間の使い方にドライブがかかりますね。

宇宙の原則?「3」のチカラ

AsiaX

「地頭力」が常に3つの要素から語られるように、お二人が「3」という数字について談笑されていました。3の原則について教えて下さい。

細谷

根拠はないんですが、3つという質と量が適当だということです。人間が原理原則をすぐに長期的に記憶できるとしたら、その容量が三つが適当という量の側面がひとつ、質的には、三次元的に3つの視点からみると、だいたいのものは、必ずどこかから見ることができる。4つの視点だと別の視点とどこかでだぶってくる。物理的、概念的なもの、いずれも3つの視点でみれば、だいたいのものはカバーできて、必要十分じゃないかと思う。

物を考えて、自分の考えを箇条書きにする時にも、2つでは、また別の見方ができるんじゃないか、と思いますし、4つ以上あった場合は、どれかが同じようなことでダブっているのではないかという見方をします。

嶋津shimadzu2

冷静に考えると、世の中は3つものでできているなと思ったんです。信号の色は3つ、三次元、金銀銅のメダル、色の3原色など、何か宇宙の原則みたいな。日本では、社長にアドバイスする際に、3つの事業に集中した方がいい、また一人の部下にマックスで与える仕事は3つまで、という話をよくします。結果論として、それを実践した会社は、何の根拠もないですが、意外と集中の原理が働いている様に思います。

ものを建てる時に、3つの支柱で建てるとより安定する、紙もそのままでは立たたないものの、もう一つ支えがあれば立てられる。物事を成り立たせるには、そもそも3つの柱が必要何じゃないかと思います。

AsiaX

3つの枠に絞って考える、または3つの柱を建てるアプローチは、あらゆる物事を考える際に役に立ちますね。例えば子育てにも当てはまりそうです。

細谷

いろんなことに役立つと思います。例えば子供に何かを学ばせる時に、心技体の側面から考えて、身体の部分は十分鍛える機会があっても、心の成長を促す機会が少し足りないかな、とか。心技体というのは一つの例ですが、3つの角度からみてチェックしてみると、視点という意味で気付いていなかった部分に気づくこともあるはずです。

嶋津

2歳の子供に考える習慣をつけさせるために、Yes‐Noだけでない3つの選択肢のある質問をするようにしています。「これをやる?やらない?他のことやる?」という風に投げか掛けるとかなり考えている風です。

p2-1

シンガポールからという立ち位置を活かす

AsiaX

アジアエックス読者にメッセージをお願いします。

細谷

これから日本に戻る、シンガポールに留まるに関わらず、在星日本人の方は、日本を客観的に見た上で、自分の持つバックグラウンドを強化して更に高められる。まさに一歩引いたところから、客観的に全体を考えてみることができる素晴らしい環境にあると思う。新しい視点で、今の環境を上手く活かして欲しいと思います。特に反省するところの多い今の不安定な日本のことを考えると、そういう視点が今後とても重要で、是非皆さんの力を発揮して頂きたいです。

嶋津

僕が海外に出て来てわかったことのひとつに、シンガポールと日本を比べると、国益を守るために日本は内向きですが、シンガポールは外を向いて積極的に施策を打っている様に感じています。そんな日本にいては見えてこないこと、皆さんならではの視点で感じたことを、是非日本にいる方々に伝えて欲しいですね。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.132(2008年10月20日発行)」に掲載されたものです。
文=桑島千春

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