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AI時代に飛躍する経営

2019年6月25日

第7回 「他者の幸せ」を追求する経営が飛躍する理由

 前回、AI の発達とともに私達が「輝かしい未来」を手に入れるためには、資本主義のあり方を根本から見直し、己の利益を追求する「欲望」ではなく、地球環境まで含めた「他者の幸せ」を追求する「希望」に基づく経営にシフトすることが必要である、と述べました。

 

 今回は、なぜそれが人間の「氣」「状態」を最大限に高め、潜在能力を最大限に発揮させ、優れたイノベーションを生み出すことに繋がるのかをひも解きつつ、具体的な実現方法に踏み込んでいきます。

 

 ここで、ある一人の女の子をご紹介したいと思います。あまり勉強が好きではなかったのですが、お母さんがその子にしたある告白によって、状況は一変します。

 

 「実はお母さんね、子供の時家が貧しくて、学校に通えなかったの。だから大人になっても分からないことが沢山あってね、恥ずかしい思いも沢山した。だから、学校で勉強してきたこと、学校から帰ったら毎日、お母さんに教えて」

 

 つまり、お母さんのこの告白が、女の子の「氣」「状態」を高め、潜在能力を発揮させた、というわけですが、なぜこのような結果になったか、お分かりでしょうか。

 

 女の子は、勉強という行為に、今まで持っていなかった、あるものを得たのです。それは、何のために学ぶのかという「目的」であり、しかも、お母さんという誰かの幸せを追求するものでした。

 

 なぜ他者の幸せを追求することで、「氣」状態」が高まるのか。一言で言えば、他者を幸せにすることによって、自分自身が幸せになれるからです。

 

 多くの方は、誰か大切な人を喜ばせるために何か企画したりしている時、他ならぬ自分自身が一番楽しんでいる経験をお持ちだと思いますので理由の説明は不要かもしれませんが、あえてそれを加えるならば、「誰かを幸せにする」という行為に身を投じることを通して、人は自らの存在意義を見出すことができる。そこに自分の価値を見出せるからこそ、幸せになれるのです。

 

 実際、以前ご紹介したダニエル・ピンク著『モチベーション 3.0』に書かれている近年のモチベーション研究の結果でも、高邁な目的を持った意義ある仕事に従事できる時、人の創造力が最大限に発揮されることが明らかになっています。

 

 創造力こそがイノベーションの源泉であることを考えれば、「他者の幸せ」を追求する経営が優れたイノベーションを生み出すことはご理解頂けると思いますが、誰かの幸せを思う心が、人の人生に大きな目的を与え、偉大な結果を生み出すことを教えてくれる映画があります。

 

 『ロレンツォのオイル』という映画です。ひとり息子のロレンツォの難病を治せる医師がいないことを知った両親は、医学的知識が無いにもかかわらず自力で治療法を探すことを決意。医師、科学者、支援団体らと衝突しながら、医学図書館に通い詰め、世界中の研究者や一流の医学者らに問い合わせ、さらに自ら国際的シンポジウムを組織し、死に物狂いの努力によって、わずか2年で当時世界中の誰もがたどり着けていなかった病気の治療法を発見するに至ります。

 

 結局、他者の幸せを本気で願う「愛」こそが創造力の源泉であり、行動力の源泉であり、偉大な結果の源泉であるということです。

 

 ビジネスの世界で「愛」などというと違和感を覚えるかもしれませんが、企業という組織は本来、存続にあたって「何のためにこの会社があるのか」という存在意義が必要であり、それを「企業理念」という形で掲げている企業も多いでしょう。

 

 本来、「他者の幸せ」を追求することは企業の社会的使命であり、それなくして企業は存在意義を持ちえないのです。今一度その本来の姿を取り戻し、社会に対して真に価値ある存在たることが、企業そして人類に今求められていることです。最終回となる次回は、さらにその方策を掘り下げていきたいと思います。

 

プロフィール
鳥内 浩一

15 年 以 上に渡り、経営者・マー ケ ッターとして現場で活動しながら、100業種300社以上のクライアントに対してコン サルティングを行い、関わる全てを幸せにする “十方よしの経営学”『日本発新資本主義経営』を広めている。規模の大小・業種業態を問わず、業績向上へと導く手腕に定評がある。著書に「売れる仕掛け」「逆説の仕事術」「『コラボ』の教科書」。

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