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座談会

2018年12月28日

シンガポール・フィンテック事情

注目集まるシンガポール 下がる言葉のハードル

AsiaX:はじめに、「フィンテック・フェスティバル」に出展しての所感をお聞かせください。

 

川端:当社はSPEEDAという企業・業界情報プラットフォームを通じて、アジアや日本を中心に580万社を超える企業の財務情報や560分野の業界レポート、ニュース記事の提供を行っています。日系・非日系を問わず、在シンガポールのお客様はフィンテックへの関心が高く、SPEEDAインサイトというテーマレポートで情報提供をしたり、個別リサーチに対応することもあります。グループ会社のソーシャル経済メディアのニューズピックスでは、フィンテック関連で大ヒットした編集部オリジナル記事があります。
 今回EXPOで行われたフィンテック・フェスティバルは中心部から距離があるものの、シンガポール内外からの客足は衰えず、中身が濃かったのではないかと感じました。また、ASEAN(東南アジア諸国連合)関連会合に並行して行われたため、インドなどから首脳、閣僚級も来ており、アジア地域でのフィンテックへの期待、盛り上がりを感じました。

 

藤原:私たちは、キャッシュレス、スマート決済分野で新しいサービスを世に出すことを目指して2017年10月に設立したばかりの新しい会社で、シンガポールでの展示会には初めて出展しました。これまで、日本や台湾の展示会に出展したことはあり、そのイメージできたわけですが、国際色豊かなことに非常に驚きました。

 

町:この展示会は、英語ベースということもあり、日本国内では接点が持てないアジア圏の投資家と話をすることができ、しかも時間の制約も厳しくないので、私たちの技術を十分に紹介できたと思っています。
 当社は、ブロックチェーン技術を活用した実ビジネスの開拓に取り組んでおり、エンターテインメント向けのシステムを今春にも稼働する予定です。分かりやすい例を挙げれば、コメディアンには、結婚式で「〇〇さん、おめでとうございます」というふうなスピーチや一発芸の営業活動している方が多いですが、これを現場に赴かなくても実現するシステムです。
 いま、Non-Fungible-Token (NFT)という代替可能性のないコインがあります。私たちはシステムをイーサリアムで作っており、NFTを取り扱うことができます。開発しているエンターテイメント系の音声、映像、楽曲や歌などが入ったデジタルムービーカード、これは触ると動き出すものですが、このカードの所有者は1人だけという状況を担保するために、ブロックチェーン技術を使っています。
 アーティスト、歌手、お笑いなどエンターテイナーからお客さんに、一点物の作品を現場に行かずに提供できるシステムができれば、場所は国内・海外で差はないので、作品自体に言語の壁はあるものの、いずれ流行すると思っています。
 また、これまで楽曲の長さという点では3分、5分なければ売れませんでした。輸送する必要から短いと単価が上がってしまうという制約があったわけですが、配信ならば1分未満でも構わないわけです。価格は50セントでというようなことがやりやすくなっていくと思います。
 将来的には、エンターテイメントに限らず、セミナーなどイベント向けにもサービスを展開できると思っています。

 

川端:エンターテイメントの世界は、言葉は重要なようで、重要ではない気もしますね。いまK-POPが世界的に強いですが、ほとんど韓国語で歌っています。アメリカのビルボードでは、防弾少年団が1位を獲得したほか、いくつかのグループがチャート常連になっています。我々も洋楽を聴いて、歌詞の全ての意味が分からなくても、「いいな」と思うことがあります。

 

町:そうですね。しかも今は瞬時に翻訳することもできる時代ですから、今後は言葉の垣根は下がり続けていくと思っています。
 シンガポールでの課題は、人口が約500万人しかいないことであり、エンターテイナーが少ない気もしています。オフィスを置いていますが、まだ、アジアで稼げるエンターテイナーと繋がれる自信が持てていません。日本のコンテンツのほうが圧倒的に強いと思います。例えば、AKBのビジネスモデルをタイなどで現地化すると人気が出ますが、果たしてシンガポールではと考えると、そこまで興味を持たれない気がします。

 

川端:シンガポールで日常的に消費されているエンタメは外国産が多いですね。ローカルアイドルはいるにはいますが、大きく成功している人はいません。コメディアンには著名で面白い人はいるのですが、どちらかという賢い感じで、ウィットに富んでいる系統です。日本のお笑い芸人のように体当たりで面白いことをするタイプは少ないです。シンガポールではまだ知られていないけれども、人気の出そうな外国のタレントとどう接合するかがカギかもしれません。

 

町:東南アジアにはいろいろな人種の人達がいます。まだ、経済的には裕福ではありませんが、5年、10年経てば中流階級が増えてくると思いますので、シンガポールから横展開してサービスを浸透させておくことが重要だと認識しています。
 実際、今回のフィンテック・フェスティバルで、一番面白いと言ってくれたのはインドの投資家の人たちでした。インドは映画文化が盛んで、ものすごい大スターがいますね。

 

藤原:私自身も、アジアに出てみるなかで、各国でそれぞれ事情が大きく異なることを痛感しています。今回、東南アジア企業と話してよく耳にしたのは、労働者が給与口座を持っておらず、いかに生活を支えていくかというときに、フィンテックが必要だという声です。日本やシンガポールとは全く別の理由でフィンテックが必要なのです。
 あるいは、台湾の路面店の店主に、キャッシュレスを導入すれば便利になるだろうなと思って話しかけてみたことがあります。実は無許可でやっているので、キャッシュレスにすると当局に全て分かってしまうので、絶対現金でなければならないとのことでした。
 サービスの根底を支える技術はしっかりしたものでないといけませんが、サービスを提供する段階では、事情は千差万別ですから、国々、人々の生活に合った形で柔軟に提供しないとウィンウィンの関係は作れないと感じています。

 

川端:同感です。当社のお客様でも、シンガポールとその周辺国ではまた事情が違います。それぞれ豊かさも異なりますから、求められるコンテンツも違うだろうし、潜在的なお客様には有料サービスにお金を払って使うことの意義を感じて頂くことが大切です。
 ところで、シンガポール人起業家と話していると、シンガポールは小さいので起業イコール周辺国展開ですが、彼らは海外進出とかグローバル化という言葉はほとんど使いません。例えばベトナムに行くならば、立ち上げ自体は創業メンバーが関わるけれども、基本的にベトナム人を責任者にして、ベトナム人がマーケティングをします。これをローカライズとも言いません。日本人は、あまりにも大きく構えすぎずという印象があります。

 

町:日本から出る場合も、外国から入ってくる場合も、どちらも垣根が高くなっていますね。例えば、日本でもこのフィンテック・フェスティバルのようなイベントはありますが、シンガポールに周辺国から集まっている状況を見れば、日本にも中国、韓国、台湾はもちろん、ウラジオストックなど極東ロシアから参加があっても全くおかしくないわけですが、そこまで国際的にはなっていません。

 

SINGAPORE FINTECH FESTIVAL (写真提供:MAS)

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