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法律相談

2018年7月31日

Q.コンドミニアムを退去したのにデポジットが返還されない場合には?

Q:新築のコンドミニアムに賃貸で住み始めてから2年が経ち、契約を更新せずに別のコンドミニアムに引っ越しました。2年間住んでいてオーナーとは特段トラブルになったことがなかったので、荷物を運び出した後、深く考えることなく鍵を返却し、返還予定のデポジット家賃2ヵ月分S$7,000の振込先銀行口座については後日メッセージで送ることになっていました。ところがその後、オーナーから怒りのこもった文面で、「床に傷がたくさんありこれを修繕するのにS$4,000、キッチンやバスルームの汚れを取るのにS$1,000、ソファに破れがあり買い替えにS$1,000、合計S$6,000必要なのでデポジットの返還はS$1,000になる。これでよければ振込先を指定しろ」とのメッセージが届きました。デポジットのうち7分の6が返還されないなど到底納得できません。ただ、入居前は新築で全くの無傷の状態だったことは事実です。このような費用は賃借人が負担する義務があるのでしょうか。

 

A:結論として、全額賃借人負担となる可能性は低いですが、どの程度負担する義務があるかはケース・バイ・ケースとなります。
何よりもまず、入居時に作成したオーナーとの賃貸借契約書(Tenancy Agreement)の内容を確認する必要があります。入居時に利用した不動産エージェント等によって表現は多少異なるものの、住居用賃貸借契約書の基本的な内容は多くの場合共通しています。オーナー側としては、賃貸借契約書で、「壊れた箇所は、賃借人の負担で修繕し賃貸開始時の状態に戻さなければならない」といった趣旨の記載があることから、全て賃貸人の負担だと主張してくるでしょう。しかし、例えば、新築の物件に2年間居住後、全く元の状態つまり新築同様の状態に戻さなければならないとすると、あまりに賃借人の負担が大きく現実的ではありません。

 

ここで確認すべきは、多くの場合”fair wear and tear expected”とあり、居住していて通常発生するような損耗については賃借人が修繕を負担すべき範囲から除かれている点です。ここでいう「通常発生するような損耗」にどこまで含まれるか、というのも常に争いになるところですが、重い家具を引きずってできた床への大きな損傷などであればともかく、注意して確認しないと判明しないような2、3の些細な傷は「通常発生するような損耗」に含まれる可能性が高いといえます。また、同様に、キッチンやバスルームの汚れ等も、些細な汚れであれば賃借人の負担の対象外となりえますし、ソファの破れも材質等から通常の使用で発生する可能性もありますので、一概に賃借人負担であるという結論にはなりません。

 

さらに、項目によっては、賃貸借契約書上、例えば、S$200までは賃借人負担で、それを超える部分はオーナー負担となっている場合もありますので確認が必要です。

 

Q:このようなトラブルを避けるには、次回の引越時にはどのようなことに気を付ければ良いでしょうか。

退去時に、オーナーと、可能であれば信頼できる修繕業者の立ち合いのもと、賃借人負担とすべき損傷を確認し、損傷箇所を双方の署名とともに書面に残し、その書面に記載がない損傷は修繕の対象でないことの確認を行うこと、可能な限りその場で見積りを取り、当日または数日以内にデポジット返還額まで確定させてしまうことが重要です。その際、証拠として損傷部の画像は必ず残しておきましょう。

 

Q:オーナーとの話合いでは解決できない場合、どのような手段があるのでしょうか。

デポジット返還を求める請求書面(Letter of demand)をオーナーに送付する手段があります。期限を明記して、同期限までに支払いがなければ、裁判などの法的手続を検討することを示す内容になります。それでも支払われない場合、法的手続をとることになります。過去には、弁護士に依頼しての裁判によるほかはなく、弁護士費用が相当程度かかることから費用倒れとなることが予想され、最終的に裁判までは行えないケースが多くありました。しかし、現在は、当事者本人が行う少額事件法廷(Small Claims Tribunals)の制度があることから、本人による少額訴訟が可能です。ただし、少額訴訟の対象となるのは賃貸借に関しては2年以下の住居賃貸借に限られ、請求の原因発生から1年以内に申し立てなければならない等の制限がありますので注意が必要です。

取材協力=ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所 仲村 諒

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注:本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別のケースについて正式な助言をするものではありません。本記事内の情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。


この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.336(2018年8月1日発行)」に掲載されたものです。

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