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シンガポール星層解明

2018年7月28日

米朝首脳会談の開催でシンガポールが得た真の成果

国際会議の開催都市でトップの座
会談の成功で一層高まる人気

シンガポールで米朝会談を開催したことは、上述した短期的な経済効果のみならず、「シンガポール・ブランド」の価値向上を通して中長期的にも高い経済波及効果が期待される。

 

国際団体連合(UIA、本部ベルギー)が毎年発表している主要な国際会議の都市別開催地ランキングによると、2017年にシンガポールは877件を開催して1位となっており、2位のブリュッセル(763件)、3位のソウル(688件)を引き離している。今回シンガポールは会談の開催を短い期間で効率的に準備し、また安全な環境下でトラブルもなく成功裏に終えることに貢献した。このことから、今後もシンガポールは国際的な紛争問題を解決する政府間協議、またミーティング(企業等の会議)、インセンティブ(企業等の研修旅行)、コンベンション(国際機関・団体、学会等の会議)、エキシビジョン(展示会等)の頭文字からなるMICE(マイス)の開催地として、強い人気を維持していくとみる。

 

また、米朝会談に先立ちシンガポールのリー首相は北朝鮮の金委員長、そして米国のトランプ大統領とも個別に会談を行った。開催国を務める外交儀礼上、形式的な内容であったにせよ、米朝両国と好意的な外交関係を確認できたことはシンガポールにとってもプラスであったに違いない。

 

成果は「世界との差」を認識できたこと
裏を返せばシンガポールには伸びしろが

米朝会談の「陰の勝者」とも呼ばれるシンガポール。しかし、今回シンガポールが得たより重要な真の成果は、目に見えないところにあったのではないかと考える。それは「アジアの優等生国家」であるシンガポールが、様々な角度で歴然と存在する「世界との差」を改めて認識する機会を持てたことである。具体的に考察した事例を2点ほど紹介して本稿を締めくくりたい。

 

1点目は、「Little Red Dot(小さな赤い点)」と揶揄されるシンガポールの認知度は、世界的にはまだまだ低いという点。ポンペオ国務長官が行った記者会見の場所を米国務省が誤って「マレーシアのシンガポール」と記載したことや、会談前日には米国のグーグル上で「Where is Singapore?(シンガポールってどこ?)」をはじめ、シンガポールに関する検索数が2百万超と全体で最大であったことが現実的な存在感を示唆している。また、先述の通り国際会議の都市別開催地ランキングでは1位のシンガポールであるが、2017年の国際観光客到着数(世界観光機関調べ)や国家ブランド指数(Anholt-GfK調べ)のランキングではトップ10にも入れないのが現状である。

 

2点目は、シンガポールメディアのクオリティがグローバルメディアに比べて見劣りする点。米CNNやCNBCは、会談当日はシンガポールを基点に米国、韓国、中国など各国のアンカーと随時中継をすることで臨場感に溢れる報道をしていた。それとは対照的に、シンガポールの国営放送局であるチャンネル・ニュースアジアは、スタジオに集まったキャスターとアンカーが基本的に同じ場所から情報を発信しており、重複感や退屈感が否めない内容であった。実際に仏イプソス社が2017年に実施した調査によると、アジア太平洋の10ヵ国におけるチャネル・ニュースアジアのブランド力は6位にとどまり(図2)、グローバルメディアとの実力差が見て取れる。

 

 

東南アジアおよびアジア圏内では確固たる認知度と実力を誇る「シンガポール・ブランド」。今回の米朝会談の開催は、今後シンガポールが世界レベルで自国のアピールをしていく上で超えるべき壁を認識する試金石となったことに真の成果があったのではないだろうか。この点は裏を返せば、観光業を筆頭にシンガポールの伸びしろを示唆しており、STBを中心にいかにして「Passion Made Possible」を具現化していくのか、今後もその動向に注目をしていきたい。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.336(2018年8月1日発行)」に掲載されたものです。

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