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シンガポール星層解明

2017年9月29日

ドン・キホーテが変革するシンガポールの小売業界

満を持して進出するドン・キホーテ
小売市場では新たなトレンドが加速

さて、今年の6月に当地への進出を表明したディスカウント・ストアのドン・キホーテは、1989年に1号店を開店して以降、他社が閉鎖した店舗を活用した居抜き物件を中心に、2007年には総合スーパー(GMS)の長崎屋、2013年には米国西海岸とハワイで展開するスーパーを買収して出店を拡大し、現在ではグループ全体で約370店舗を出店している。2018年6月期の決算では29期連続の営業増益が見込まれており、また今年の8月にはGMSのユニーに40%を出資して再建支援を行うことを発表するなど、日本の小売業界では数少ない成長企業の1社であると言える。

 

ドン・キホーテの進出が拍車をかける形で、シンガポールの小売業界では2つのトレンドが加速するとみている。1つ目は、前述した店舗における顧客体験の進化である。ドン・キホーテの代名詞とも言える常に「売場構成が変わるワクワク感」や「目玉商品が入れ替わる期待感」を提供するエンターテイメント性を備えた「時間消費型」の店舗は、既存の横並び状態の店舗に飽き足らない消費者に確実に刺さるとみる。2つ目は、新たな業態開発の加速である。ドン・キホーテは、オンリーワン業態の創造を掲げて日本国内の店舗では食料品から高級ブランド品まで様々なカテゴリの商品を販売しており、これまで唯一の海外出店先である米国においても、惣菜を中心に日本からの輸入食品・雑貨および米国の商品を融合した品揃えを提供する新業態をオープンさせている。シンガポール1号店は、興味深いことにキッチンヘルパーやバーテンダーも募集していることから、今までにない新業態で登場することが期待される。

 

日常使いの店を創造できるかが勝負
安定した調達・物流網の構築は必須

日本と米国で培った商品政策と顧客体験を武器にシンガポールでも快進撃が予想されるドン・キホーテであるが、最後に期待される成果を上げていくために克服すべき課題を2点ほど述べて本稿を締めくくりたい。

 

1点目は、店づくりのコンセプトを商圏特性に合わせて明確に、また必要に応じて柔軟に見直していくことだ。1号店が出店するオーチャード・セントラルは、ミレニアム世代を中心とする現地の消費者だけではなく、日本も含めた世界各国からの駐在員や観光客が数多く訪れるエリアに立地しているため、誰をメインターゲットにして商品政策と顧客体験を構築していくかが非常に重要になる。また今後は郊外の居抜き物件への出店も想定されるが、異なる商圏ごとに消費者が日常使いできる地域密着型の店舗を創造していけるかが多店舗展開を成功させる上でカギとなる。

 

2点目は、安定した調達および物流網の構築である。日本のドン・キホーテではPB商品の売上高構成比は11%にとどまり、大部分の商品はメーカーや卸が抱える過剰在庫をその都度仕入れる形で調達してきたとみる。だがシンガポールでは仮に特定の商品の在庫が切れた場合、代替商品の調達には日本とは比較にならない時間がかかり、顧客満足に悪影響を与えることが懸念される。

 

社名の由来にもなっている、既成の常識や権威に屈しない「ドン・キホーテ」のように新しい小売業態を日本で創造してきたドン・キホーテが、シンガポールで如何なる旅路を歩んでいくのか。「ワクワク感」と「期待感」を持って注目していきたい。

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山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.326(2017年10月1日発行)」に掲載されたものです。

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