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ビジネスインタビュー

2017年6月23日

鹿児島の素晴らしさを東南アジアに発信、シンガポールとの定期直行便の開設目指す

 地元の食材を海外に広め、さらに旅行客を呼び込むべく、シンガポールでプロモーション活動を展開する日本の自治体は数多い。国際的な人的交流プログラムであるJETを通じ鹿児島県で働いた経験を持つ、シンガポール人の許原韶 ケナードさんも、そうした自治体の活動に携わる一人だ。幼い頃から日本のポップカルチャーに魅了されてきたというケナードさんは、両国の架け橋になるべく、鹿児島とシンガポールを行き来する日々を送っているという。そんなケナードさんに、鹿児島の魅力などについて聞いた。
 

 

シンガポール国立大学(NUS)在学中に、日本への留学を3回経験していますね。日本に関心を持つようになったきっかけを教えて下さい。

 幼い頃から、日本のポップカルチャーに強く影響を受けてきました。テレビでよく広東語吹き替え版のドラえもんを見ていたほか、エレクトーンを習っていた小学生の頃、課題曲の多くはTRFやSPEEDの歌うポップミュージックでした。高校生のときには、漫画「スラムダンク」の影響でバスケットボールを始めるなど、日本のドラマやアニメ、音楽、漫画、ビデオゲームに接する中で、日本語を学び、もっと日本のことをよく知りたいと思うようになったのです。

 

 大学では日本研究を専攻し、福岡と京都、岡山に留学、日本語や日本の歴史、経済、社会などについて幅広く学びました。また京都で勉強していた頃、地元のハンバーガーショップでアルバイトを経験し、方言を含め生きた日本語を学ぶことができたのも貴重な経験です。これらの留学はすべて奨学金によるもので、将来は日本と関わりのある仕事に就くことで、何か恩返しがしたいと思うようになりました。

 

どのような経緯で現在のお仕事に就いたのですか。

 大学卒業後は、半導体を扱う日系商社に就職したのですが、日本の良さを海外に広める仕事がしたいという思いが強くなり、JET(地方自治体が総務省、外務省、文部科学省と一般財団法人自治体国際化協会の協力の下で実施している「語学指導等を行う外国青年招致事業」。The Japan Exchange and Teaching Programmeの略称)に応募し、鹿児島に行くことが決まりました。

 
 鹿児島では、県庁の国際交流課や県民交流センターに勤務し、文書の翻訳や海外から訪れるVIPの通訳のほか、現地の小学校などを訪問してシンガポールの文化を紹介するなど、さまざまな活動に携わりました。JETプログラムの最後の年である2015年には、鹿児島県が東南アジアでのPR活動を強化するため、2016年に海外拠点を設置することを検討し始めました。私にも声がかかり、実際に海外展開が始まるまでの間に貿易関連の知識を身につけられるよう、鹿児島県貿易協会の専門嘱託員の仕事を紹介してもらいました。

 

 2016年5月に鹿児島県ASEANディレクターへの就任が決まり、シンガポールに帰国。自分で貿易とマーケティングの会社を立ち上げ、県からの事業を受託する形で現在の仕事を始めました。

 


 

現在、具体的にどのようなお仕事をしているのですか。

 鹿児島産の食材を東南アジアに広めて旅行客を呼び込むため、シンガポールで開催される旅行博や食品フェアに参加したり、BtoB向けに鹿児島の魅力を発信するセミナーなどを開催したりしています。シンガポールの旅行代理店との間でも、鹿児島行きの旅行パッケージの作成などについて協議しています。BtoCのプロモーションにも力を入れる方針で、SNSを活用したマーケティングも通じて、鹿児島の食材や観光地のブランディングを図っています。

 

 また現在、鹿児島とシンガポール間では定期直行便がありません。シンガポールから鹿児島へ行くには、福岡から新幹線で1時間半程度かかり、アクセスの向上が海外から人を呼び込む課題のひとつといえるでしょう。現在、シンガポールにある航空会社を訪問し、直行便の実現に向けてヒアリングを行い鹿児島県とも共有しています。

 

 

ほかの東南アジア各国に対してはどのようなアプローチを考えていらっしゃるのでしょうか。

 東南アジアではシンガポールのほか、タイ、マレーシア、ベトナムを特に重視しており、現地で開催される旅行関連の展示会に出展するほか、旅行代理店やレストランなどへもアプローチしていく方針です。

 

 一般向けのマーケティングでは、買い物の習慣やメディアへの接し方などについて、国ごとの違いを考慮する必要があると考えています。例えばベトナムでは、モバイルの通信規格はLTEではなく、依然として通信速度の低い3Gです。モバイルで動画を見る人は他の国に比べ少なく、動画によるプロモーションはあまり効果的とは言えないと思います。

 

鹿児島の魅力について教えてください。

 食材については、和牛や黒豚、焼酎、さつまいも、ブリ、マグロ、ウナギなどさまざまな特産品があります。ただしシンガポールへの輸入を考えると、肉については規制が厳しいため、野菜や海産物を中心に展開する方針です。緑茶や黒酢も健康食品としてPRしていきたいですね。観光の面では、世界自然遺産の屋久島をはじめ、霧島や奄美群島、砂むし温泉のある指宿など魅力的な観光地が多数あります。「屋久島はアニメ映画『もののけ姫』の舞台のモデルになった」と話すと、興味を持ってもらえることが多いです。

 

 また来年は、明治維新があった1868年から150周年を迎えます。NHK大河ドラマのテーマも西郷隆盛に決まっており、地元は関連イベントで盛り上がるでしょう。

 

鹿児島での暮らしの中で、印象に残ったことはありますか。

 地元の人達が、周囲と協力しながら自然との共存を目指しているところです。鹿児島市内にある桜島が人情のある独特の風土を育んでいると思います。自然災害に対して協力して対処していこうという姿勢があり、みんなが自分のことだけでなく周囲の人や環境のこともちゃんと考えているのです。地元の商店街の人が、公道に積もった桜島の灰をきちんと掃除し、綺麗な環境を保とうとしているのが印象的でした。

 

シンガポール人と日本人のワークスタイルの違いについて、どのようにお考えでしょうか。

 シンガポール人は個人の実力と効率を重視し、定時になると帰宅し、家族との時間を大切にする人が多いように思います。これに対し、日本には「飲みニケーション」と呼ばれる文化があり、会社の人とのつながりを大切にしています。お酒の席を通じて、上司や同僚から普段聞けない話を聞くことができ、互いの考えをよく知るうえでもいい機会になると思いますね。

 

 こうした機会を通じて、周囲と良い人間関係を築いていくことで、さまざまな問題を解決できるほか、自身の人脈では出会えなかった人を紹介してもらえたり、新しいビジネスの可能性が生まれたりすることもあります。こうしたことの大切さは日本で学びました。

 

今後の活動に向けての抱負をお聞かせください。

 鹿児島には見どころが多いものの、東京や大阪、北海道といったメジャーな観光地に比べると、まだまだ東南アジアでの知名度は低いと言わざるを得ません。今後もシンガポールを拠点に、地道に鹿児島の良さをPRしていきたいと考えています。鹿児島の特産品のクオリティの高さを知ってもらい、実際に現地を訪れてもらえると嬉しいですね。

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許 原韶 ケナード (シュ  ユエンシャオ ケナード)

1982年シンガポール生まれ。NUS在学中に九州大学、京都大学、岡山大学に留学し、日本語や日本史などを学ぶ。2008年にNUSを卒業後、半導体を扱う日系商社を経て、2010年にJETプログラムで鹿児島へ赴任。県庁などに勤務した後、2016年にシンガポールへ帰国し、自身の会社を立ち上げるとともに鹿児島県からASEANディレクターの業務を受託した。日本人の妻と子供の3人で暮らしている。

写真提供:許 原韶 ケナード
取材:佐伯 英良

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