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座談会

2017年6月23日

シンガポール個人所得税の注意点とは?

AsiaX:本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。今回の座談会ではシンガポールの個人所得税について、いろいろとお聞きしたいと思います。
斯波さん、まずはシンガポールに住む日本人が知っておくべき、個人所得税の基本的な事柄についてお聞かせ下さい。

 

斯波:日本の所得税は、勤め人の場合は基本的に給与から源泉徴収されるので、他に所得があったり医療費控除を申請したりする人を除き、源泉徴収票を受け取るだけで終わってしまうことが多いのですが、シンガポールでは自分で申告し、納税する必要があります。

 

AsiaX:所得税の対象となる期間や支払い方法について教えて下さい。

 

斯波:まず所得税の対象となる期間ですが、シンガポールも日本と同じで申告の前年の1月から12月の暦年を対象期間とし、申告期限はシンガポールの場合4月15日となっています。居住者の申告書は「Form B1」と呼ばれ、以前は印刷された申告書に記入して提出していましたが、現在は原則オンラインで申告します。
通常は4月15日までに申告すると、7月頃には賦課決定通知書が郵便で送られてきます。賦課決定通知書を受け取る時期は人によってまちまちで、遅い場合には申告の翌年の3月頃に受け取る人もいます。税金の支払方法は、賦課決定通知書を受け取ってから1ヵ月以内に全額まとめて支払うか、分割で支払うかのどちらかを選ぶことができます。分割払いは、予め自動引き落とし制度(GIRO)を申し込むのが前提で、銀行から毎月決まった金額が引き落とされます。

 

AsiaX:オンライン申告はどのように行えば良いのでしょうか。

 

斯波:給与所得者の場合、まず事業主が「Form IR8A」と呼ばれる従業員の給与所得証明書を3月1日までに発行することになっています。従業員数が9名以上の事業所の場合、会社は証明書をオンラインで内国歳入庁(IRAS:Inland Revenue Authority of Singapore)に提出します。8名以下の事業所の場合は、従業員本人に証明書を手渡すことになっています。
会社が直接IRASに証明書を提出した場合、IRASのマイ・タックス・ポータル(税務申告サイト)にアクセスすると、自分の給与所得が自動的に入力されていますが、会社から証明書を手渡された人の場合は、受け取った証明書に基づいて自分で給与所得の情報を入力しなければなりません。また、給与所得以外の所得がある場合にも自分で入力しなければならないので、申告漏れがないように注意しましょう。

 

AsiaX:賦課決定通知書は人によって発行される時期が大きく異なるようですが、なぜでしょうか。所得額などが関係しているのでしょうか。

 

斯波:所得額は関係ないと思います。「賦課決定通知書」と呼ばれるように、シンガポールは賦課課税方式を採用しているので、納税者が申告しただけでは終わらず、IRASの検査官が納税者一人一人の申告内容を査定し、税額を計算して通知します。そのため、申告書を受け取った順番や内容の複雑さなどにより、人によって通知書が発行される時期に差が生じるのでしょう。所得税の申告は3月1日から受け付けているので、早めに申告すると賦課決定通知書も早く受け取れるかもしれません。

 

井寺:日本のように会社が申告や納税を代行したほうが簡単だと思うのですが、シンガポールでは昔から納税者が自分で申告や納税をしなければならない制度だったのでしょうか。

 

斯波:はい。日本では、税金を確実に徴収できるように、給与だけでなく利子、配当、報酬などの居住者への支払いについても源泉徴収が義務づけられていますが、シンガポールでは、所得税の源泉徴収は非居住者への特定の支払いに限られており、個人の給与所得については、居住者も非居住者も定められた申告期間に納税者が自分で申告して納税する仕組みになっています。

 

輿水:今年受け取った賦課決定通知書を見ると、計算された税額から更に20%が差し引かれていましたが、これはなぜでしょうか。

 

斯波:シンガポール政府が、今年度の予算案で、2017賦課年度(2016年の所得)について所得税の20%(最高で500Sドル)を控除すると発表したからです。政府は、景気が落ち込んでいたり物価が上昇したりしている時に、国民の生活を支援するために減税することがあります。税額控除は毎年ある訳ではなく、ある場合もその金額や割合は年度によって異なります。税額控除が発表された場合、既に帰国してシンガポールにいなくても、対象となる年度に183日以上シンガポールで働いて納税していれば、税金が還付されます。
還付は、GIROによる分割納付を行っていない場合、通常は小切手がIRASに登録された住所に郵送されます。小切手を換金することができない場合、IRASに文書で依頼すれば、銀行為替手形(Bank Draft)や電子送金により還付金を受け取ることも可能です。心当たりがある人は、自分宛の還付金がないかどうか、IRASに問い合わせてみるとよいでしょう。

 

AsiaX:受け取った賦課決定通知書に記載されていた金額が、自分で計算した税額と違っていたという話を聞くことがありますが、これはなぜでしょうか。

 

斯波:税務検査官が納税者と異なる判断をして税額を計算したからだと思います。受け取った賦課決定通知書の内容や金額に納得できない場合は、異議申し立てができます。その場合は、申し立ての内容にその根拠となる資料を添えて、通知書の発行日から1ヵ月以内にマイ・タックス・ポータルからIRASに提出します。
賦課決定通知書を受け取ったら、税金を支払う前に自分が提出したForm B1の内容と受け取った通知書の内容を見比べて、申告通りに課税されているかどうかを確認しましょう。駐在員の方で、会社が会計事務所に申告を依頼してくれた場合は、受け取った通知書を会計事務所に送れば、IRASの計算に問題がないか確認してくれます。

 

古川:毎年4月に前年の所得を申告し、それから数ヵ月後に納税するとなると、その前に帰国しなければならなくなるといった例もありますよね。その場合はどうすればいいのでしょうか。

 

斯波:外国人の場合は、シンガポールを出国する前に必ず所得税を精算しなければなりません。帰国の場合も含め、外国人が退職することになった場合、事業主は退職の1ヵ月前までにIRASに申告し、退職通知を受け取ってから退職日までに支給するはずの給料を全て支払わずに留保し、税金を支払い終わった後に残金を本人に支払うことになっています。帰国するまでに税金の精算が間に合わない場合には、残金の受け取り方法について事前に会社と話し合っておくとよいでしょう。仮に本人が税金を滞納したまま退職した場合、事業主は本人に代わって税金を精算する義務がありますので、人事担当者は注意しましょう。

 

齋藤:年度の途中で転職した場合、どのように所得税を支払えばよいのでしょうか。

 

斯波:シンガポール国籍の従業員の場合には、年度の途中で転職しても、通常の申告期間に1年分の所得をまとめて申告すればよいのですが、外国人の場合には、先ほども説明したように、退職する前に事業主が本人に代わって所得税を精算することになります。シンガポール国内で1年に何回も転職した場合には、その都度税金を精算しなければなりません。ちなみに、2回目以後の精算では、前の勤め先の分も含めて1月1日からの所得を一旦全て合算して税金を計算した上で、未納分の税金を納付することになります。

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