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シンガポール星層解明

2017年4月25日

シンガポールにおけるスポーツブランド勝敗の法則

消費者目線に立った商品政策の推進を
販売チャネルの巧拙はブランドの体現を左右

多数のスポーツブランドが限られた市場のパイを競い合っている状況では「マーケットイン」に立脚した商品政策、すなわち消費者の顕在的なニーズや潜在的なウォンツを基に商品を開発し、店頭での品揃えや陳列に反映していくことが一段と重要になってくる。しかし商品の情報不足や選択肢が多すぎるが故に、消費者自身が何を求めているのか具体的に理解していないケースも存在するため、ブランド側は積極的かつ明確に商品のバリュープロポジション(提供価値)を発信していく必要がある。

 

321web_20170401_124854ナイキがムスリム女性のアスリート向けに開発したスポーツ用のヒジャブや、外国からの訪問客を狙ったと思われる「新加坡」のロゴ入りご当地Tシャツ、また「ランニング」、「トレーニング」、「ライフスタイル」と利用シーンごとに選びやすく構成されたナイキの売場は、いずれも消費者目線に立った商品政策の一例と言える。

 

またナイキは、シンガポールの小規模なスポーツ専門店への商品の供給を今年1月から停止することを表明しているが、その背景には物流費の削減といったオペレーション上の改善のみならず、大規模専門店やオンライン店舗に限定して商品を流通させることで店頭でのブランドイメージをコントロールし、結果的に顧客体験を高める狙いがあったと考えている。

 

独自に複数ブランドを揃える小売店に人気
後発ブランドは事業モデルを再検討する必要

さてここまでスポーツブランドを主体に動向をみてきたが、独自のコンセプトに沿って複数ブランドの商品やサービスを提供する小売店も市場での存在感を高めている。例えば、ランニング用品の専門店「running lab」では、海外のアスリートに人気があるブランド商品の販売に加えて、ランニングマシンで商品を試用できるサービスを提供している。またスニーカーのセレクトショップ「Limited Edt」や「The Social Foot」では、コラボや海外モデルに力を入れた品揃えをしている。これらの小売店は、ナイキやアディダスなど単一ブランドの店舗と同等、もしくはそれ以上の集客に成功しており、消費者に対する「専門性」、「希少性」、「顧客体験」の提供を軸に、今後スポーツブランドが参考にすべき要素を含んだ展開を図っている。

 

シンガポールにおけるスポーツブランドは、自社のみで展開、自社とディストリビューターで共同展開、ディストリビューターが展開、の3つの流通形態に大きく分けられるが、自社のみで展開する形態を除き、これまで考察してきた店舗戦略、スポンサーシップ、商品政策、そして販売チャネルで成功するには、ディストリビューターの手腕が肝要となる。しかし本来であれば、二人三脚で事業を推進すべきディストリビューターが複数ブランドを取り扱っているために、自社ブランドのポテンシャルが十分に発揮されていないケースなど、ディストリビューターの能力に懸念があるのも事実である。

 

後発のスポーツブランドにとって市場拡大のチャンスにあふれるシンガポールであるが、チャンスをものにするためには、自社ブランドが効果的に消費者に伝わり、目標とする売上に結び付いているかを冷静に見直し、自社展開への切り替え、またはディストリビューターの再選定も含めて、事業モデルを再検討する時期に差し掛かっている。

316web_book_10_mr-yamazakiプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.321(2017年5月1日発行)」に掲載されたものです。

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