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シンガポール星層解明

2017年3月6日

成熟社会の実現に向けたシンガポールの新経済成長戦略

構造的な課題への言及不足に懸念も
専門機関による定期的な戦略立案を

CFEが策定した戦略、またはCFEの位置づけに関しては懸念する声も出ている。

 

まず戦略の内容に関してだが、30人の官民有識者が1年の歳月を掛けて9,000人の利害関係者へのインタビューも踏まえて立案したというにも関わらず、その提言内容は過去に言及されてきたことの焼き直しに近い印象が否めず、新規性に欠けているという声がある。確かに「スキル」や「イノベーション」といったコンセプトは時代の趨勢を問わず経済が成長を続けていくためには必須であろうが、政府が主導する成長戦略に繰り返し盛り込まれるとなると重複感が否めない。また提言内容は個別業界やミクロな課題に傾斜しており、高齢化社会やシェアリングエコノミーの勃興に起因する社会保障制度や税財政政策の見直し、また外国人労働者への過度な依存や高い土地コストなど、経済全体に影響を及ぼす足元のマクロな課題を踏まえていないという声もある。

 

一方CFEの位置づけに関しては、これまでのように不定期の頻度で戦略策定機関を設置するのではなく、常設の機関が体系的な手法で成長に向けた課題を洗い出し、過去に実行された戦略の推移も顧みながら新たな成長戦略を策定していくべきという声がある。過去30年間で4回の委員会は、1986年、2003年、2010年、そして2017年と、直近2回はそれぞれ前回から7年間の間隔を空けて設置されているが、スマートフォンやシェアリングエコノミーの急速な普及が物語る通り、経済を取り巻く環境はわずか数年で激変する世の中である。それ故に、より高い頻度で定期的に成長戦略を見直していくことは検討に値するであろう。

 

戦略実行に向けて1,900億円の予算
国家主導型で目指す成熟社会

シンガポール政府はCFEが提言した新成長戦略の受け入れを表明し、2月20日に発表した2017年度予算案では、今後4年間にわたる戦略の実行に向けて24億Sドル(約1,900億円)を投じる計画が盛り込まれている。これは政府が昨年計上した産業変革プログラムのための45億Sドル(約3,600億円)とは別予算となり、2017年度予算案では、同プログラムに対しても10億Sドル(約800億円)を上乗せする計画である。

 

図1に示す通り、過去15年間は年平均で5%を上回る経済成長を遂げてきたシンガポールであるが、新成長戦略では向こう10年間で年平均2~3%の成長を目指していることからも明らかな通り、経済成長に頭打ち感が出ているのは否めない。アジアを代表する世界有数の先進国となったシンガポールが、CFEが提言する戦略の実行を通じて一段と付加価値が高い経済構造へシフトさせたうえで成熟社会を築いていくことができるのか、政府のリーダーシップと実行力に注目していきたい。

 

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web_profileプロフィール
山﨑 良太
(やまざき りょうた)
慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社のシンガポールオフィスに所属。週の大半はインドネシアやミャンマーなどの域内各国で小売、消費財、運輸分野を中心とする企業の新規市場参入、事業デューデリジェンス、PMI(M&A統合プロセス)、オペレーション改善のプロジェクトに従事。週末は家族との時間が最優先ながらスポーツで心身を鍛錬。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.319(2017年3月6日発行)」に掲載されたものです。

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