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星・見聞録

2011年12月5日

世界に誇る光のイベントを通して、シンガポールの光の都市計画を知る。

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熱帯都市に輝くクリスマスイルミネーション、今年もきらびやかに。

「クリスマス・イン・トロピック」と呼ばれる毎年恒例のクリスマスイルミネーションが、今年も華やかに始まった。世界的に知られる旅行誌、ロンリープラネットで、「世界で最も美しいクリスマス・マーケットベスト10」にも選ばれた恒例のオーチャードロードをはじめ、、セントーサ島やマリーナベイのイルミネーションも今年は一層充実していて見逃せない。それぞれ年明けまで実施される予定。

エリア毎にデザインやテーマも違うため、雰囲気や色合いが異なる。涼しい夕方に街をそぞろ歩く楽しみが増えそうだ。それぞれの見どころを紹介しよう。

オーチャードエリア

スクリーンショット 2015-06-16 15.16.31毎年ユニークなテーマのもと、2.2キロにも及ぶ長いオーチャードロードを光のキャノピーが彩る。今年のテーマは、「クリスマス・ブルームス・イン・シンガポール」で、シンガポールのデザイン会社ModernAgeが受け持った。シンガポールで花咲くクリスマス、というイメージを立体的なブルーの花々と、平和とハーモニーを表す銀と青色のイルミネーションで表現している。青い花は、五つのハート型の花びらを星がつなげている形にデザインされている。例年より落ち着いた印象にまとまった。全体で数百万個使用されているというLEDライトは、3年前から導入され、消費電力は約70%も節約することが可能になったという。オーチャードロード•ビジネスアソシエーションの主催で、点灯式やイベントが盛大に開催されたが、1991年から継続して日立グループがメインスポンサーとしてオーチャードロードのイルミネーションをサポートしていることも、例年注目されている。また、通り沿いの11のショッピングモールによるイルミネーションは、、ビルの「ベストドレッサー賞」をかけて、趣向をこらした個性的なデザインを施しながら通り全体を盛り上げている。今年は、オーチャードロードのフェイスブックページからの一般投票で第一位が決まるとのこと。お気に入りのイルミネーションを見つけたら、是非投票に参加してみてほしい。www.facebook.com/orchardroad.sg

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セントーサエリア

スクリーンショット 2015-06-16 15.16.15ケーブルカーのあるマウントフェーバーから、ビボシティ、セントーサ島へのボードウォーク、そしてセントーサリゾートワールドの一帯がクリスマスカラーに染まる。

セントーサリゾートワールドは、「フェアリーテール・クリスマス」というだけあって、暖かい色調のライトアップに、おとぎ話を再現したような雰囲気に包まれる。

また、リゾート内には、アジア一の高さを誇る38mのクリスマスツリーが登場した。特に、ボードウォーク伝いにセントーサ島まで渡る夕涼みがおすすめ。運が良ければ、期間中、大道芸を披露する芸人たちに出会えるのと、ビボシティーの金銀、ピンク色をテーマにしたツリーも見ながら、本島とセントーサ島両方の眺めが楽しめる。潮風に吹かれ歩く、至福の時間が過ごせそうだ。

 

マリーナベイエリア

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ぐるりと湾を囲む多数の建造物がほぼ完成したマリーナベイでは、”Christmas alive at Marina Bay”と題して、華やかなイルミネーションの演出を約束する。中でも、南洋芸術学院とコラボレーションしたというアーティスティックなクリスマスツリーのプレゼンテーションなど、これまでになかったイルミネーションが楽しめる。

 

 

都市を彩るライティング、光と陰のデザインがある都市計画

IR(総合リゾート施設)のマリーナベイやセントーサ島エリアがほぼ完成し、2008年から夜間市街地レースのフォーミュラ・ワンを毎年開催する等、都市国家の外観は、近年みるみる変化した。 また、次々と新しいビルやショッピングモールが完成し、通りの様相が丸ごと変わったエリアも多い。それらは、URA(Urban Redevelopment Authority、都市再開発庁)によって、10年に一度見直されるコンセプトプランと、5年に一度改訂されるマスタープランに沿って実現された結果とも言える。それに伴って、美しい夜景を演出する街の明かりもまた、重要な都市計画の一部である。そんな「光」のマスタープランが、日本の照明デザイン会社であるライティング プランナーズ アソシエイツ(LPA)社によって策定されたことを知る人は少ない。オーチャードロード、マリーナベイ、シンガポール川沿い、ブギスという対外的にも重要なエリアのライティングのアドバイスをしてきた同社のシンガポール事務所代表である葛西玲子さんに話をきいた。

 

シンガポールの都市計画に照明デザインが盛り込まれた意図とは何ですか。

シンガポールでは、20年先をも見据えて、既にある街並みをどう整えて行くかということを政府主導で積極的に考えられています。私たちLPAが2006年に提供した照明に関するマスタープランは、その都市計画の一部として、URA(都市再開発庁)の旗ふりのもとに国内各所に取り込まれています。URAは、高度に整備された機能的な都市空間から、創造的な印象を強く演出する新しい手法の一つとして、都市照明の力で景観をアップグレードする方針を打ち出したのです。

 

シンガポールならではの照明デザインを教えて下さい。

海に面したトロピカルなモダンシティ、またはガーデンシティといわれるシンガポールにおいて、夜の快適なそぞろ歩きのための景観づくり、夜にも水辺を感じることのできる光の演出を街づくりの要素に取り組む計画が進められました。

一部例を挙げると、世界一のショッピングストリートを政府観光局も目指しているオーチャードロードでは、建物のファサードや街路樹の緑の美しさが映えるようなライティングを提案しました。また、マリーナベイに面したCBD(セントラルビジネス地区)なら、躍進を続けるダイナミックかつ洗練された国際都市、シンガポールのエネルギーを象徴する印象的な夜の絵はがきを創るイメージでガイドラインを作成しました。どの高層ビルも、ビル頂部に個性的な照明デザインをあしらい、ビルの低層部の照明演出も洗練されたある統一感を持った景観にすることを目指しています。色温度で言うなら、高層ビルの頂部は、クールな色みのライティング、低層部になると柔らかく暖かみのある色みのライティングを奨めています。

 

シンガポールの照明デザインを含む都市計画は、海外からどう評価されているのでしょうか。

国家政府主導で推進するというのが、世界的に見ても珍しいことです。光を使ってシンガポールという都市をアピールする上でも、政府主導で推進している分、環境が整い易いと言えます。

昨年、大阪府元知事(現大阪市長)の橋下氏が大阪新都心整備計画の一環として光と水の街づくりを目指していたこともあり、シンガポールに視察にいらした事があります。シンガポール川やマリーナベイ界隈をボートから眺められ、街の景観づくりに大変感銘を受けていらっしゃいました。

 

実際にマスタープランを実現する上で、問題となっていることはありますか。

一方で、政府による規制などのコントロールが他より少々きつい事がマイナスかもしれません。現在、新しいビルの建築デザインの認可を取る際、照明デザインの詳細も盛り込むように定められている上、建築物にはエコを考慮した設計が求められており、それぞれ政府規定のグリーンマークの取得が義務づけられています。その条件がかなり厳しいため、設計段階の審査でURAから修正を求められるなど、苦戦を強いられることもあるようです。

照明の種類に関して、低い消費電力で大きな光エネルギーを得られる特性があるLED(発光ダイオード)照明が推奨されています。しかし、照明は、人と光のインターフェイスであるべきで、色みや精神的に与える心理的な問題など、LEDを利用することで全てが解決されるわけでないのです。例えば、美術館やホテルのライティングをデザインする際、暖かみのある心地のいい空間や環境を作るための光の質を考えると、必ずしもLEDがいいとは限りません。ただし、グリーンマークの条件を満たすのにともかくLEDを使用して欲しいと施主に言われ、頭を悩ませることもあります。

また、照明器具の品質によって差が出ることが多く、 熱に弱いLEDランプに対し、熱がうまく放出されない低品質の器具だと不具合を起こし、特徴とされている長寿命を果たせないケースや、照明のイメージが変わってくることもあります。コストだけではない部分を理解して設置してもらう必要があります。

 

 

エコや節約の意識が逆に妨げになることもあるのですね。

現在、あらゆる意味で光環境の転換期にあるといえるでしょう。電気機器メーカーの中には、家電製品もLED仕様に変えることを推進している企業もあります。 LEDの技術は進化しており、色みや形など、従来の白熱灯に置き換えられるようになってきましたが、まだコストも高いですし、これまで使いなれた白熱灯が全廃されるようなことになるのがいいのかどうか、まだ疑問が残りますね。

日本でも、東日本大震災後の復興地域や都市部では、省エネのためのLED化が進んでいます。ただ、それ以上に節電の意識が広がった事で、駅やビルなど、これまで必要無い光がたくさんあったことも多くの人が認識し、正しい光との付き合い方を考えるきっかけになっているようですが、それは大きな変化ですね。

 

LPAでは、シンガポールで一般向けに明かりに関するイベントを実施されました。

私たちがこれまでシンガポールのマリーナベイで2回実施した「キャンドルナイト」というイベントは、光についてのアプリシエーションを皆で考えるためのものです。日本の本社では、過去数年間、都内の表参道などで「キャンドルナイト」の開催に関わってきました。普段自分の周りにある照明を消して、生活の中のあかりを考えようというものです。もっとも原始的で、現象としての光は火ですから、ろうそくを使ってのイベントや、リサイクルの材料を使ってランプを作るなどのワークショップを行っています。

私たちは、照明デザインを通して、環境全体に関わる仕事をさせて頂いています。人間の住環境を良くする、より良い生活を促すことで、今後のシンガポールの環境全体がより良くなることに貢献していければと考えています。

 照明のマスタープランに参画する前から、シンガポールの多数の建築物などの照明デザインを手がけてきたLPA。現在、来年完成予定のガーデンバイザベイ、2015年に向けてのナショナルアートギャラリーなどの照明デザインも担当し、シンガポール政府観光局(STB)やシンガポール陸運庁(LTA)、国立公園局(NParks)による実施を見守る忙しい日々を送っている。シンガポールの明るい未来のために、美しく洗練された光の演出がこれからもますます期待されている。

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p8葛西 玲子

 Lighting Planners Associates(LPA)シンガポール事務所代表。東京出身。桐朋学園大学音楽学科、米国ラトガース大学芸術学部音楽学科修士課程修了、元ピアニスト。2000年末シンガポール事務所立ち上げに伴い、シンガポールに拠点を移す。建築、デザイン、アートなどの記事を各メディアに寄稿するなどフリーランスライターとしても活躍中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.202(2011年12月05日発行)」に掲載されたものです。
文= 桑島千春

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