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4賢人の知恵袋 ~新時代のビジネスアプローチ~

2016年7月18日

ブランディング編 第4回 これから先、求められるブランディング力

時を得る者は昌(さか)え、時を失う者は亡ぶ」。世の中の流れ、時間や状況の変化に対応できる者が栄えるという戦国時代の中国の思想家、列子の言葉です。そのような人になるためには、何が不変で、何が不変ではないかを見極める力も必要です。変化のスピードがどんどん早くなっていると言われる今、必要とされるブランディングの要素とは何でしょうか?

 

ひとつは、「競争しない!」ということです。これまでの資本主義社会の原理として避けられないもの、それが競争でした。自社の位置する業界内で、必然的に生まれるライバル企業(店)との商圏やシェア争いに意識を傾け、いかにして勝つかが大切なポイントでした。確かに競争相手がいてくれるからこそ、自社の商品・サービスが磨かれ、成長の原動力にもなってきたことも事実でしょう。

 

しかし現在の市場において、競争原理主義の状況は大きく変わってきました。業界内、ライバルとのシェア争いを意識する時代は過ぎ、自分たちが存在する業界そのものが、これからの時代にどのようなカタチで必要とされるかを考えなくてはなりません。業界そのものの在り方を考え、市場、社会との関係性をより良くすることができなければ、自社の商品・サービスの提供価値も生まれていかないのです。業界の存在意義に向き合いながら、社会、時代にも愛されるタッチポイントが作れた時に、自社とお客様のより深いつながりが築けます。

 

もう一つは、「美学」を含んでいるかです。
アメリカの経済学者ダニエル・ピンクは「今後は右脳を活用しない仕事は、低賃金国やコンピューター(AI/人工知能を含む)に仕事を代替えされ、あと10年で今ある業種は半滅する」と言っています。まさに、機械的な作業や画一的なサービスはどんどん効率化・低コスト化されていき、雇用状況も大きく変わるでしょう。だからこそ、お客さまの期待を超える、感動を生むサービス提供が大きな価値に変わっていきます。いかにサービスの提供に手間をかけられるかが知恵と工夫の見せ所です。

 

そのために必要なのが、ダニエル・ピンクの言う右脳を活用する仕事、すなわち感性を使い、人間ならではの美的センスで勝負するということです。相手の心や精神性を満たすこと、目に見える商品・サービスだけではなく、目に見えない部分を満たせること、それが期待を上回るということです。だからこそ、そこには日本人の抽象的な感性・美的センスが求められます。

 

日本人の曖昧さは、世界で通用しない!とビジネス業界では良く聞くフレーズですね。しかしその曖昧さの中に、相手を慮る調和の精神、遊び心や粋と言われる部分があるのではないでしょうか。そして日本人以上に世界の人々がそんな日本の文化や精神性に関心を持ってくれているのではないでしょうか。そんな美的な感性や精神性に人は惹かれ、共感し、共有したくなるのだと思います。

 

デザインの語源は、ラテン語の「Designare(デジナーレ)」から来ており、人間の生活を改善していきたいという思いとシステムのことを指します。その人の生活をよりよくする一部になれた時(デザインできた時)に、自社とお客様との深い関係が築けるのだと思います。

 

まず、狭い業界でのイス取りゲームではなく、イスの数を増やそうという発想、気概を持っていきましょう。「神は細部に宿る」という言葉通り、人々の感性をくすぐる独自の美学を取り入れ、時を得、栄えるためのブランディングを目指しましょう。

junji_kawasaki01川崎 順司(かわさき じゅんじ)
有限会社遊心企画代表取締役、クリエイティブディレクター。

広告制作会社で大手企業のプロモーションを数多く手がける。独立後、「Re-design(価値の再定義)」を提唱し、人、企業、地域とともに、未来への架け橋となる「愛され続けるブランド」づくりに従事。日本の文化を生かした未来の知恵づくり活動も行っている。 

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.306(2016年7月18日発行)」に掲載されたものです。

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