2016年5月16日
ブランディング編 第3回 ブランディングの成功事例に学ぶ
ブランディングを成功させるには、「喜ばせたい人、幸せにしたい人」を明確にすることが大切です。また、感謝される喜びが、愛され続けるブランドづくりの源泉になります。今回は、あるお店のブランディング事例をお話します。
オフィス街で働く若い女性をターゲットにしたパスタ店がありました。小さな路面店ですが、自慢の手作りパスタが人気で、心地よさと雰囲気のあるお店です。メニューもオーナーのセンスが生かされ、働く女性たちのオアシスとして繁盛していました。その噂が広がり、大型の商業施設から出店依頼が入りました。堅実で慎重なオーナーは悩んだ末、全国展開を誇る人気店が立ち並ぶフードフロアへの出店を決断されました。結果、このお店は新しい環境でも大繁盛をし、他の施設からも続々と出店要請が入ることになります。このお店が繁盛した理由は、もちろんパスタそのもののクオリティの高さもありますが、「誰を喜ばせ、笑顔にしたいのか」が明確であり、その思いを届けられたからに他なりません。
お店の姿勢が明確だと戦略も決まってきます。このパスタ店は開業における広告費を省き、お客様とのコミュニケーションを重視した内装や、様々なツールのデザインに予算を充てました。こだわり抜いたサービスやメニューなどのクリエイティブさは届けたい相手の心をとらえ、商業施設側もイチオシ店としてプッシュしてくれました。あわせて、各メディアからも注目を集め、広報もうまく機能していきました。これも、「口説き落としたい相手の心を揺さぶる」という一連のストーリーが明確であったため、施設もメディアも紹介しやすい、紹介したくなるブランディングができていたのだと思います。
さらに大きな力が働きました。それは、優秀な人材確保です。近年、飲食店が抱える最大の悩みが人材確保。接客業では、働く人たちの仕事ぶりがお店の印象にも直結します。このお店では、喜ばせたい人が明確で、一連のストーリーにそった世界観があります。そうすると、この世界観を共有したいと思う人たちがでてきます。
「共感」を生み出せば、人が集まります。それは、お客様だけではなく、共に働く仲間も集めます。そして、明確な相手を喜ばせることが目的になると、スタッフが協力しあうという現象が生まれます。お客様が喜び、スタッフもやりがいを感じるという、幸せになる連鎖ですね。このお店から、押し付けのサービスではなく、共感を生むサービスが、ブランディングへの近道だと学べます。
もうひとつ例をご紹介します。私の友人に出産祝いのギフト商品を販売している方がいます。私もお祝いの際には利用しており、これまで100%の確率で、贈り先から感激の連絡をいただきました。特に奥様から、「川崎さんのセンスは素晴らしい!」と私がベタ褒めされてしまうのです。もちろん商品そのものも素晴らしいのですが、パッケージ、梱包等、デザインを含めた細部にわたる気遣い、心配りの数々に感動すら覚えるほどです。贈り先に喜んでもらうだけでなく、贈った私自身が最高に嬉しい気持ちになれます。
「ブランディングとは思いやりである」とこの友人にあらためて教えられました。と同時に、これこそが日本の誇るべきサービス精神なのだと。
日本が誇る、人をおもんぱかるという資質をもっと浸透させていきましょう。「なんて気の利くお店(人)だろう!」という最高の褒め言葉を集めましょう。相手が何を欲しているかを「察する力」がブランディングの根元です。明確な相手を慮り、楽しませ、幸せになってもらえるように尽くす。そのストーリーが共感を生み、共感が人を集める。真のブランディングとは幸せの連鎖なのだと思います。
川崎 順司(かわさき じゅんじ)
有限会社遊心企画代表取締役、クリエイティブディレクター。
広告制作会社で大手企業のプロモーションを数多く手がける。独立後、「Re-design(価値の再定義)」を提唱し、人、企業、地域とともに、未来への架け橋となる「愛され続けるブランド」づくりに従事。日本の文化を生かした未来の知恵づくり活動も行っている。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.302(2016年05月16日発行)」に掲載されたものです。