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ビジネスインタビュー

2006年2月20日

「焦らず、背伸びせず、諦めず」ヒラメキをキラメキに変えるということ

DIDシンガポール プロダクトデザイナー 大山実良さん

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あらゆる分野のクリエーター達がオフィスやアトリエを構えるクラブストリートのショップハウスの中に大山氏のオフィスはある。ベテランのプロダクトデザイナーとして来星し、現地事務所を立ち上げて3年目になるという。 大山氏は子供の頃の数年間をニューヨークで過ごした。その時の鮮烈な印象がこの職業に導いたきっかけかもしれないと笑う。30代後半、その後の進路について考えていた時期に会社の海外展開の話があり、単身で乗り込む決意をしたという。

 

日本に本社をもつ株式会社DIDは、釣り具メーカーとして有名なダイワ精工のデザインを主に請け負い、その他は趣味、スポーツ、健康の分野に関わる商品のデザインを得意とする。大山氏自身も、バスフィッシングのロッドのデザインを手がけ、過去にグッドデザイン賞を受賞した経験のある実力者だ。90年代前半に株式会社コニカ(現在の株式会社コニカミノルタ)のデザイン部門と共同で作った「現場監督」というカメラは、その名の通り、建設現場や、アウトドアの仕事に従事する人々に長く愛され、デジタルカメラにその地位を譲るまで10年以上の長い期間重宝された。

 
「DID社は、釣り具を主にデザインしているだけあって、機能と操作感さらにデザイン性、その接点のバランスが取れた商品をデザインしている会社です。」と大山氏は「現場監督」のカメラを手の上にのせながらその特徴を説明した。
シンガポールに事務所を開設したきっかけは、シンガポール経済開発局の研究開発、芸術などのソフトに対する支援の姿勢に後押しされたことが大きい。来星当初は、今すぐにでも各種商品のデザインを必要とする中小企業が多く有り、日本でキャリアを積んだ大山氏のデザインやサービスへの需要はいくらでも有るように見えた。しかし、これまでの認識の違いか、氏の対価をとても支払える準備がなく、大企業向きのデザイン提供へとシフトせざるを得ない現実に戸惑ったという。現在は、こちらで培った人の縁を通して、大手健康器具メーカーにプレゼンテーションする機会があり、大掛かりなプロダクトデザインの仕事を受注するに至った。仕事の実績と人の縁が次の仕事を生む。派手な広告をうつこともないビジネスゆえに、実績をもとに今後へ繋げていきたいという大山氏は、これまで通り堅実に確かなものを作りだす妥協を許さない姿勢で臨んで行くつもりだ。

 

大山氏が今後クオリティの高さを証明しながら、コンセプトとモノ作りをリンクさせ、デザインしたものを商品として育てるデザイン事務所として数々のプロジェクトをこなしていくのは間違いないだろう。
「来星して改めて日本のモノ作りへのこだわりとレベルの高さを実感しました。納得いくまで追求する姿勢や職人気質に文化の厚みがある。シンガポールは、ビジネスありきの発想から、経営企画やコンセプトづくりは上手くても、造形の部分が見落とされがちなのが現状なのです。」と、大山氏は語った。現在、当地の芸術学校であるラサールSIAにて週に一度教壇に立つ。スタジオプロジェクトという科目で、細分化されたデザインの基本的な科目の総まとめとしてデザイン実習をする。モノ作りにおいては進んでいる日本の創作のプロセスをひとつひとつ学生に紹介することで、見落とされた部分を補ってあげたいという。 「これまでの経験やノウハウを分ける喜びを感じるとともに、教師陣とのコラボレーションでプロジェクトをしたり、そのつながりからビジネスの機会が生まれたりと、なんともありがたいですね。」と忙しい合間を縫ってでも続ける意味を語った。

 
デザイナーとして巣立った卒業生から感謝の意を込めて夕食に誘われたことが良い思い出になっているという。教える側にあっても発見や学ぶことが多いという大山氏の謙虚で柔軟な姿勢が、学生からも親しまれる所以に違いない。 大山氏が世に送り出すモノ作りにこだわる若きプロダクトデザイナー達とのコラボレーションが叶う日も近い。

 
今後はシンガポールを拠点に東南アジア各地でのプロジェクトにも関わって行くことになる大山氏を、東京に残して来た家族も将来を楽しみに応援してくれているそうだ。プロダクトデザインというシンガポールではまだ発展途上のソフト産業を牽引して行くという意味でも、大山氏のこれからのシンガポールでの活躍に注目したい。

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