2014年8月14日
大阪発、唯一無二のスイーツとパン、妥協なき日本の職人技を世界へ
Mugiho Bakers Pte Ltd
改装を経て6月末にリニューアルオープンしたフードコート、ラオ・パ・サ。フードストールが立ち並ぶ中、ほかのゾーンとは趣が異なるカフェがある。それがデリチュース・パスティチュリア(Delicius Pasticceria)。本店は大阪府箕面市にあり、シンガポールではMugiho Bakers Pte Ltdが運営する。同社ダイレクターの西尾拡さんは、ラテン語で「おいしい」を意味する店名を冠したチーズケーキとの出合いが、シンガポール進出のきっかけとなったと話す。
「6年前に初めてこのチーズケーキを食べた時、これは世界に通用すると思いました。フランス産チーズを使い、軽く、口の中でとろける。香港にも持って行き、食通のアメリカ人の友人にもあげたところ、おいしさに衝撃を受けて私に電話をしてきたほどです。その後、シンガポールでベーカリーをオープンすることになった時、インパクトがある商品として、このチーズケーキを持ってきたいと思ったのです」。
これまでデリチュースは、オーナーシェフの目が届く距離にしか出店しないという方針で、大阪にしかなかった。東京や福岡、その他海外からも出店の誘いがあったがすべて断ってきていた。
「オーナーシェフがシンガポールに視察にきてもらったのですが、最初はあまりいい印象を持たれなかった。しかし、たくさんの人が集まるラオ・パ・サを気に入り、ここで多くの人がチーズケーキを食べている様子が思い浮かんだようです」。
ラオ・パ・サは在住日本人をはじめ、地元客も多く来店する。
「たくさんの日本人の方にご利用いただき、本当にありがたく思っています。シンガポールの方はやさしいというか、『店に来た以上、買ってあげなくちゃ』と思っていらっしゃるように感じることがあります。ただし、その分売れないと自分たちの努力が足りないということを強く感じてしまいます」。
Made by Japanese Handsへのこだわり、未来を見据えて人材を育てる
シンガポールの店では大阪でオーナーシェフのもと長年働いてきたシェフが腕を振るう。職人の手による仕事であることが大事だという。
「日本でつくられたMade in Japanを持ってくるだけではなく、日本が培ってきたものづくりへの姿勢をローカルのスタッフに伝えることで、Made by “Japanese Hands”の品質を実現したいと思っています。日本の職人のかける手間や姿勢は、こちらの人には非効率にうつることもあり理解しもらうのは容易ではありませんが、幸いスタッフに恵まれており手応えを感じています」。
世間をあっと言わせたいという思いを持ちつつ、単に目先の利益にとらわれず、長期的な展望に立って人を育てたいと話す。
「この先、何十年経っても残ることを考えなくてはいけない。人を育てるのには10年はかかると思っています。ビジネスにおいて基礎となるのは人間であり、目標に向かって共感できる人を多くつくらなくてはいけない。海外の日系企業はローカライズが大事だとよく言われますが、それによってその会社が持つコアな価値観が失われてはいけない。グローバルに通用する組織にすることが大切なのであって、妥協して現地に馴染ませることはあってはなりません」。
会社プロフィール
2013年にシンガポールで設立。今年6月からラオ・パ・サとチャンギ空港ターミナル3でベーカリー「Mugiho Boulangerie」とスイーツの店「Delicius Pasticceria」を営業、究極のチーズケーキ「デリチュース」をはじめ、バームクーヘン、各種ケーキ、ベーカリーでは惣菜パン、クロワッサンなど約50種類のパンを販売している。タントクセン病院でも「Fresh Bakery」を運営している。
Mugiho Bakers Pte Ltd
Boon Siew Building, 75 Bukit Timah Road #04-01 Singapore 229833
TEL:6338-2162
取材後記
西尾さんは香川県出身で、東京の大学を卒業後、投資銀行勤務を経て中国へ。
「アメリカの大学でMBAを取得しようと思っていたら、親に中国広東省珠海にある家業の工場へ行くように言われて……。中国で仕事をしながら、南カリフォルニア大学(USC)と上海交通大学のグローバル・エグゼクティブMBAプログラムに通いました。クラス30名のうち日本人は自分1人で、同級生は企業家や国際的な大企業のトップばかりでした」。
シンガポールの印象は、「社会が安定し、シンガポールの人はビジネスにおいても、信頼できる人が多いと思います」。
香港でも会社を経営し、シンガポールと行ったり来たりの生活を送る。「休みの日は専ら5歳の息子の世話です」。