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4賢人の知恵袋 ~新時代のビジネスアプローチ~

2015年12月7日

マーケティング編 第1回 マーケティングの本当の定義・目的

「マーケティング」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか? どんなイメージをお持ちですか? この言葉については専門家の間でも様々な定義がなされ、それを読むとかえってわかりにくくなります。また、一般のビジネスパーソンの間でも人によってイメージが大きく異なるため、まずは最も分かりやすい定義から始めたいと思います。

 

あなたは、「マーケティングの父」として知られるフィリップ・コトラー氏が、「人は、(経営学者のピーター・)ドラッカーをマネジメントの父といい、私をマーケティングの父という。ありがたいことだが、そうであるならば、ドラッカーはマーケティングの祖父である」という言葉を残しているのをご存知でしょうか?
そしてそのドラッカー氏は、次のように述べています。「企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は2つの、そして2つだけの基本的な機能を持つ。すなわち、マーケティングとイノベーションである」。
極めてシンプルなドラッカー氏のこの定義に従うならば、イノベーションとは新たな商品・サービスを創造すること、マーケティングとはその商品・サービスを顧客に届けることと言えるでしょう。

 

しかし、この極めてシンプルな定義も、「顧客の創造」をどう捉えるかによって解釈が異なってきます。すなわち、それを会社寄りの視点で捉えれば「顧客の獲得」や「売上・利益アップ」に焦点が当たり、それがマーケティングの目的となります。
これは多くの企業のマーケティングに対する捉え方と一致するのではないかと思いますが、私はこの焦点こそがマーケティングを失敗させ、様々な問題を引き起こしてきたと考えています。そして、特にこれからの時代、その傾向はますます強くなるでしょう。

 

それはなぜか。あなたがお客様の立場なら、あなたの便益ではなく自分の売上や利益に焦点を当てている人や会社と付き合いたいでしょうか?
どんなに表で崇高な理想を掲げていても、売上や利益に焦点が当たっている限り、企業も人も必ずそれを優先する行動を取ります。お客様が必要とする商品ではなく、自分達が売りたい商品を売り、自社の利益を捻出するために、お客様にかける経費を削減します。

 

自社の利益を優先している企業と、自分の利益を優先してくれる企業
自社の財布しか見ていない企業と、自分の人生を考えてくれる企業

 

どちらを選ぶかは誰の目にも明らかだと思いますが、以前はそうでないこともありました。買い手が入手できる情報や選択肢に制限があったからです。
しかしながら、情報社会の進化によってこの情報格差はなくなりました。買い手は売り手の「嘘」を一瞬で見抜き、負の口コミは圧倒的なスピードで広がります。

 

さらに、IT化やグローバル化の進展により、今や国境を越えて取引することも可能な買い手には無限の選択肢が与えられています。買い手は、自分にとって最高の企業以外を選ぶ理由はありません。

 

売上や利益は、追えば追うほど、逃げていく。業種業態・規模の大小を問わずそれが真実であることを、私は自分自身の経験と数多くのクライアントを指導する中で見てきました。
マーケティングを「顧客の獲得」や「売上・利益アップ」の手段と捉えている限り、決して望む結果は手に入りません。短期的にはうまくいったとしても、長期的には必ず失敗します。

 

今求められているのは、その根本的なパラダイム転換なのです。次回、その意味するところについて詳しく掘り下げていきます。ぜひ楽しみにお待ちください。

Mr-Toriuchi鳥内 浩一(とりうち ひろかず)
株式会社リアルインサイト 代表取締役・経営コンサルタント
10年以上にわたり、経営者・マーケッターとして現場で活動しながら、100業種300社以上のクライアントに対してコンサルティングを行う。規模の大小・業種業態を問わず、業績向上へと導く手腕に定評がある。著書に「売れる仕掛け」「逆説の仕事術」「『コラボ』の教科書」。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.293(2015年12月07日発行)」に掲載されたものです。

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