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ビジネスインタビュー

2005年11月7日

「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ」その土地、人々に愛される企業になる

HONDA ICVS Singapore Managing Director

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ホンダ哲学の語り部と自称する小林氏が来星して6カ月。ホンダが世界で初めて提案する新しい車両共有システムをここシンガポールで確立し、浸透させるという任務を背負っての来星だ。2001年に同社がシンガポールでICVS(知的車両共有システム)の実現を目指してHONDA・DIRACC(ホンダダイラック=ホンダ・ダイレクト・アクセスの略)を立ち上げてから4年目、今年から事業の本格化を目指す。

 

 

「自ら松明を手に持って」ICVSをシンガポールで実現する

万人向けのシステムというより、補完的な車の新しい利用法を提案するのがHONDA・DIRACC。シンガポール国内に13カ所ある車両貸し出し及び返却用ポートからハイブリッドエンジン搭載のホンダシビックをいつでも好きな時に好きなだけ利用できる会員制のシステムである。車両の共同利用というこれまでにないシステムを提案するというのがビジネスなのだから、雛形のない状況で経営指揮をとる小林氏には多くのチャレンジがあるはずだ。「クランクシャフトを回転させる、つまりエンジンをスタートさせるその時にこそパワーがいるのと同じで、新しいことを始めるときというのは、とっかかりにうんとエネルギーが必要なんです。」と小林氏は語る。

 

今後HONDA・DIRACCの会員を増やしていくためにも、その利便性を感じてもらえるニッチな顧客層に利用法を提案する形でアプローチしていくのが鍵となる。少数精鋭の営業部隊には、顧客本意の発想でイニシアチブをとって対応を心がけるよう日々発破をかけている。シンガポール人のアソシエイト達に小林氏はホンダの考え方を彼らの目線にたった方法で伝えているという。「とくに明確な方向性を提示し、経営側として達成したいことを十分共有できれば、存分に力を発揮してくれます。」と断言する小林氏に、これまでの海外経験を踏まえた経営者としての自信を見た。
このシステムは、個々が所有する都市での車両台数を減らし、典型的な交通渋滞や駐車場不足の解消や大気汚染の軽減をも念頭においた未来志向の考え方でもある。車両を製造する会社が個人所有を減らす方向の発想というのもかなりユニークだ。「企業の側としてCO2問題など未来の環境づくりに対する社会的責任があります。孫の代まできれいな空気を残すというのがホンダとしての考え方です。そしてそれがICVSの発想の原点なんです」と小林氏は穏やかに答えた。

 

ローカルによるローカルのための地域特性に根ざした企業になる

今後の方向性について、「まず1〜2年でシンガポールにてICVSを確立し、第2に会社を現地化する。そして現地のアソシエイトの手で会社自体が運営されるようになるのが理想です。」と小林氏は語る。「日本発のシステムがシンガポールで改良され、より汎用性の高い仕組みとなり、メイド・イン・シンガポールとなって外へ出て行くようになればいいと思うんです。」と、現在のシステムが常に未来形であることを付け加えた。ロンドンの都市再開発チームがシンガポールへ視察に訪れた際、特にHONDA・DIRACCの仕組みに関心を示して帰っていったという話からも今後の可能性と汎用性が伺える。
ハードを生み出す技術面では突出しているホンダだが、技術だけが先走ることなく、お客様に喜んでもらうことを大切にしながら、カスタマーサービスや社会貢献のソフトの部分でも独自性をもつべきという考え方が常にある。人間尊重という点においても、その土地にあった社会貢献をしており、特に安全性を高める必要がある東南アジア地域での自動車教習所の設立支援をはじめ、シンガポール国内でのHONDA・DIRACCのチャリティー活動にもそれが活かされている。今年の中秋節には、トアパヨで低所得層のお年寄りに甘さをひかえた月餅を特別注文して配った。又、第一線で頑張る人たちを応援すべくITE(技術専門学校)の学生に奨学金を授与するのも今年で2回目を迎えた。それらの活動はとてもユニークで、シンガポールの一企業市民としての視点からの貢献であるといえる。
「創設者の本田宗一郎氏も31歳で工専へ入り直し、冶金を習ったんです。手に職をもって頑張る人たちなしでは我々は存在し得ない訳で、とかく学歴重視のシンガポールではそれが見過ごされがちです。」と 小林氏はITEの学生達の熱心さに感心したことを懐述しながら語った。

 

 

 

ホンダに入社以来、輸出物流や生産管理、国内営業、商品企画をかねた海外営業と、最前線でモノの流れを見つめる立場を歴任してきた小林氏。その間に米国や台湾駐在も経験し、中国語も堪能だ。自社製品への思い入れも人一倍だが、あくまでも地域社会やそこに暮らす人々への関わりにこだわる氏の姿勢に、人と環境にやさしい技術をハードとソフトの面からコツコツと作り出すホンダ的人類愛を感じる。安全で便利なシンガポールの生活にも慣れた。

 
現在、プライベートでも会社の部下を始めいろいろな人達とお酒を挟んで気軽にコミュニケーションを取ることが何よりのリラックスの方法だという。ゴルフも誘われれば喜んで、とのこと。当地には単身赴任だが、日本に奥様と12歳の愛娘がいる。先月も娘の運動会で二人三脚をするのに帰国したばかりとのことで、家族との有意義な時間を捻出することも欠かさない良き家庭人でもある。穏やかでウイットの効いた識者の物腰をもつ小林氏は、常に真摯であることを心がけながら、ジョン・レノンの大ファンとして、自身の信条を「オール・ユー・ニード・イズ・ラヴ、愛こそはすべて」と締めくくった。

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この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.062(2005年11月07日発行)」に掲載されたものです。
文=桑島千春

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