2010年10月4日
Q.この度、シンガポールの子会社に取締役として赴任することになりましたが、取締役への就任にあたり留意しなければならないことについて教えてください。
シンガポール企業の取締役について
シンガポールの会社には、常時1名以上の取締役(そのうち少なくとも1名はシンガポール居住者)が必要とされています。取締役は、18歳以上の自然人で、完全な法的能力を有する者でなければなりません。取締役は、会社の経営を担う重要な役職であるため、取締役としての責任を負う能力がないと考えられる人については、会社法により取締役への就任が禁じられています。以下のような人は、取締役として不適格者であるとされています。
- 破産者
- 裁判所から不適格命令を受けた人
- 詐欺または不正行為により有罪判決を受けた人
- 会社法上の登記義務に関する違反を繰り返している人
取締役の就任にあたっては、以下を含む会社法および慣習法上の義務および責任を十分に理解し、遵守することを宣誓しなければなりません。
- 取締役としての責任を全うする
- 会社の経営に必要とされる十分な知識および技能を有する
- 会社の利益のために誠実かつ勤勉に行動する
- 会社との利害の対立を避ける
- 委譲された権限および資産を正当な目的のために使用する
- 会社法の規定を遵守する
- 会社の経営に関する自らの行為について株主に報告し、開示が要求される事項について開示する
取締役は、会社との利害の対立を避けることが求められているため、対立する可能性のある利害を有する場合には、取締役会において開示する義務があります。開示が要求される利害は、以下を含みます。
- 会社または関連会社の株式、社債、新株予約権等の保有
- 会社または関連会社と取締役本人または取締役が役員または出資者である法人との間の契約または取引
取締役が会社法に規定される取締役としての義務を怠った場合、会計企業監督庁(ACRA)は、取締役に対して会社法違反による法的手続きを取ることができます。また、会社や株主は、取締役の職務怠慢による損害について賠償請求訴訟を起こすことができます。
取締役としての義務の不履行による会社法違反のうち一般に見られるものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 定時株主総会が開催されていない
- 年次報告書が提出されていない
- 役員および株主の詳細が正しく登記されていない
- 登記事務所の変更が正しく登記されていない
ACRAは、会社法の遵守を徹底するために、新たにACRAのウェブサイト上の登記会社一覧に各会社の法令遵守の状況や次年度の定時株主総会開催期限を掲載するようになりました。
法令遵守の徹底に伴い、今後取締役の責任が益々厳しく問われるようになるでしょう。取締役への就任にあたっては、これらの義務や責任を十分に理解した上で引き受ける必要があるでしょう。
取材協力=斯波澄子(Tricor Singapore Pte. Ltd.)
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.176(2010年10月04日発行)」に掲載されたものです。
本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別ケースについて、正式な会計士の助言なく、本情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。