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会計・税務相談

2009年7月6日

Q.長年シンガポールで製造業を営んできましたが、マレーシアに工場を移転することになり、シンガポール工場の土地および建物を売却することになりました。この不動産の売却により多少の利益が発生する見込みです。シンガポールでは、キャピタルゲインは課税されないと聞きましたが、不動産の売却益は課税の対象にならないでしょうか。

シンガポールでの資産売却益の税務上の扱いについて

シンガポールの税法は、損益取引のみを課税の対象としており、資本取引は対象外とされています。従って、キャピタルゲインは益金不算入であり、キャピタルロスは損金不算入とされます。

 

不動産を含む資産の売却によって生じる利益は、それがキャピタルゲインである場合には非課税となります。但し、同じ資産の売却益であっても、それが事業所得であると見なされた場合には、損益取引として課税されます。

 

資産の売却益が資本取引であるか損益取引であるかは、以下に挙げるような点を考慮して、総合的に判断されます。

 

  1. 取引対象
    取引の対象が一般に事業で取引されるもの(商品、工業製品等)は損益取引と見なされる可能性がより高く、逆に、一般に長期的な保有を目的として取引されるもの(株式、美術品等)は資本取引と見なされやすくなります。
  2. 所有期間
    所有期間が長いほど資本取引と見なされやすく、逆に短いほど事業取引と見なされやすくなります。
  3. 同一人物による類似取引の頻度
    似たような取引の頻度が高いほど事業取引と見なさやすくなります。
  4. 売却された資産に加えられた改良の有無
    資産価値を高めるための改良が加えられて売却された場合には事業取引と見なされやすくなります。
  5. 売却の背景
    売手が売却を余儀なくされる状況(急な現金需要等)にあった場合には事業取引とは見なされにくくなります。
  6. 動機
    資産取得の動機が転売による利益の稼得にあることを裏付ける証拠がある場合には事業取引と見なされやすくなります。

 

事業取引であるかどうかは総合的な見地から判断され、所有期間が何年以上であれば事業取引とは見なされないといった具体的な指標や規定はありません。

 

質問の事例では、これまで長年にわたり土地建物を固定資産として事業に使用してきたこと、マレーシアへの工場移転およびシンガポールでの操業停止という資産を売却せざるを得ない理由があること等から、売却益についてはキャピタルゲインとして非課税扱いとされる可能性が高いと言えるでしょう。

 

但し、キャピタルアローワンスが認められている工業用建物や設備・機械について、税務上の簿価よりも高い金額で売却する場合、売却価額又は取得価額の何れか低い方の金額と税務上の簿価との差額についてバランシングチャージが課せられる点に注意が必要です。また、GST登録業者である場合には、これらの資産の売却についても他の課税供給と同様にGSTを徴収する必要がありますので、ご留意下さい。

取材協力=斯波澄子(Tricor Singapore Pte. Ltd.

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.148(2009年07月06日発行)」に掲載されたものです。

本記事は一般的情報の提供のみを目的として作成されており、個別ケースについて、正式な会計士の助言なく、本情報のみに依存された場合は責任を負いかねます。

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