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嶋津良智の「リーダーにつける薬」

2010年7月5日

部下育成は待たされることの連続だ!

ある時、子供と買い物に出かけました。まだ小さいため、ちょこまかちょこまかと、あっち行き、こっち行きしながら歩きます。

 
その間子供は、大人にしてみるとよく分からない赤く光る電球や、道端の落ちている石ころなど、何かを発見したかのようにあっちこっちに足を運びます。本来自分一人であればものの5分で歩ける距離に、30分くらいかけて歩くことになるので、考え方を変えれば、非常にイライラする話です。

 
しかし、子供はこの短い距離を長い時間かけていろいろなものに触れながら、勉強しているのです。
見守る力のない大人はすぐに抱っこしたり、「速く歩きなさい!」とでも言って、子供なりに楽しんで勉強している大切な時間を奪ってしまいます。
今回何でこんな話をしたのかといいますと、私はセミナーでよく、もしかしたら上司にとって一番必要な能力は「我慢」かもしれないという話をします。「見守る力」ということです。

 
上司という立場の人は、それなりの経験や実績を積んできているので、部下の仕事振りを見ていると「いや~そうじゃないんだよね~」「そこでそう言ったらだめじゃん」と叫びたくなるような場面が多々あることでしょう。
しかし、仕事を覚え、能力を磨いていくのに必要なのは、たくさんの「失敗」です。失敗をする前に親や上司が直ぐに手を差し伸べてしまっては、せっかくの成長の機会を奪いかねません。

 
そこで、部下や子どもの成長のためにも多少は目をつぶっても「見守る」、要するに「我慢」する気持ちを持たなければいけないのです。

 
親は、子供がおなかの中にできると生まれるまでの十月十日待たされ、笑うのを待たされ、ハイハイするのを待たされ、しゃべるのを待たされ、歩くのを待たされるなど、そもそも待たされることの連続です。

 
同じように部下を持つ上司になったら部下の成長の過程では、待たされることの連続なのです。非常に効率を求める今の企業では相反することをしなければならないのが人の教育ではないでしょうか。

 
人を育てるのに魔法はありません。こういった日々の地道なコミュニケーションが、人を育てていくのではないかと私は考えます。

文=嶋津良智(しまづよしのり)


株式会社リーダーズアカデミー
代表、シンガポール在住。
2度の株式上場体験を活かし、日本・シンガポールを始め、アジアを中心に経営コンサルとして活動。世界9ヵ国12都市でチャリティーセミナー実施。
最強の部下を育成し、最強の組織を作る、業績向上のための独自プログラム『上司学』が好評を博す。著書7冊執筆、韓国・台湾でも翻訳されている。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.170(2010年07月05日発行)」に掲載されたものです。

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