2013年7月15日
雇用政策の違い
従来、日本型雇用慣行は、年功序列型給与を前提とした終身雇用制でした。古い話から始めると、第2次世界大戦前は事実上の終身雇用で、あくまで雇用者の善意に基づく解雇権の留保であり、明文化された制度としてあったわけではないとされます。
その後、1950年代から1960年代にかけての神武景気、岩戸景気と高度経済成長が続き、多くの企業の関心は労働力の不足にありました。特に大企業における終身雇用が一般化したのもこの頃です。判例として1970年代に成立した“整理解雇の4要件”、労働組合活動の活発化により雇用者の解雇権も制限されるようになり、終身雇用が制度として社会に定着していきました。参考までに、終身雇用された従業員との間に結ばれている労働契約は“期間の定めのない雇用”(無期雇用)と規定され、法的には“終身雇用”という言葉は存在しません。
しかし、1990年代から2000年代にかけて日本企業は円高およびそれに起因する国際競争力の弱体化による平成不況に見舞われました。結果として過大な人件費を抱え過剰雇用の状況となりました。雇用調整の方法として、正社員に対しては残業の規制、配置転換、出向、早期退職制度、また、パートタイマーや期間工に対しては契約更新中止、新規採用の中止等が行われました。上記は主に大企業が中心ですが、中小企業は実施できる方策に限度があり、かなりの苦労を強いられました。日本のかかる経済社会情勢により終身雇用の維持はもはや困難になっています。また、非正規雇用の増加もあり“整理解雇の4条件”の前提条件がかなり崩れてきて“4条件”の充足判断も各企業の経営や雇用の実態をふまえて従来よりも緩やかに認められる傾向となってきています。
これに対してシンガポールでは、外国企業からの投資が国の経済成長の大動脈であり、その方針にのっとった雇用形態となっています。外国企業は、シンガポール事務所を設立する事のメリットを認識すると即事務所を開設して必要な人員を雇用します。事業が計画通りに推移しない場合は、即事務所を閉鎖して別の国へ移動します。外国企業のこのような行動形態を容認した上で、シンガポール政府は雇用、労働制度を構築しています。かつては日本の製造業もシンガポールにかなり立地していましたが、現在はほとんど撤退し、近隣のアセアン新興国に移動しています。
シンガポールでは、職種別の雇用形態で労働の流動性が高いのが特徴です。通常の解雇に関しては、特殊なケースを除いては1ヵ月もしくは3ヵ月の事前通知での解雇、あるいはその期間相当の給与を支払うことにより即刻の解雇も可能です。解雇に際してはその理由を記載する必要はありません。
ただ最近は、不況期を乗り切る地場企業の対応策が従前とは異なってきました。従業員との合意のもと、長期安定雇用を目指して不況期のみ基本給の一時的減額を行う企業が出てきました。給与の一部を変動可能性のある給与部分として予め設定し、不況期の対応策としています。雇用政策一つをとっても、国によりかなりの違いがみられます。
今月のスナップショット
赤系の色の花は当地でも多く見られますが、外では強い太陽光にやられがち。プルメリア (フランジパニ)の花はそれにも負けず綺麗に色を発色してます。(写真:丸茂 修)
文=ケルビンチア・パートナーシップ法律事務所・丸茂 修
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.238(2013年07月15日発行)」に掲載されたものです。