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2013年8月19日

多重組織とフラットな意思決定機構

従来、日本型雇用慣行は、年功序列型給与を前提とした終身雇用制でした。稟議書社会の日本の意思決定機構は“社長-役員-部長-課長-担当者”という、多重組織の社内ピラミッドを反映した形ですが、一部企業においてはかなりこの組織が崩れてきています。

 
日本の社会で多重組織の社内ピラミッドがある大きな理由の一つは、日本社会がジェネラリストの集団であるからと思われます。意思決定の機構だけでなく、打ち合わせ会議でも参加者が多くなります。人数が多いのは日本の教育が一般教育を中心においており、これもまたジェネラリストが多いためです。“三人寄れば文殊の知恵”というわけです。人数が多いこと自体、形態上悪いとはいえませんが、参加人数の多さにより議論に時間を取られ、結論に至るまでにかなりの日程を費やさねばなりません。ただし、時間をかけ、細かいところまで討論しますので、検討上漏れが最小限に抑えられるでしょう。

 
問題があるとすれば、時間がかかるために、事業の相手方とのタイミングが合わなくなることです。あるいは競争相手がある状況で交渉している場合は、競争相手に本案件をさらわれてしまう危険があります。特に海外案件を手がける場合は、相手がオーナー企業、あるいはフラットな意思決定組織の企業である場合が多く、短時間で意思決定していくので、そこへの適切な対応が海外市場にて日本企業が生き残っていくための必須条件となります。

 

これに対して当地では“社長-(担当役員)-担当者”と言うのが標準的な意思決定機構です。担当役員が介在しない場合もありますので、この場合は社長-担当者の2人で企画し、実施していきます。または、担当者をおかずに担当役員が自ら実務をこなしていきます。いずれの場合も、担当役員もしくは担当者はその道の専門家です。

 
例えば土地を入札で購入して、事務所ビルを企画設計・建設し、販売もしくは賃貸とする場合、担当役員または担当者は不動産開発関係の学科を大学で専攻し、その後不動産開発会社で経験を重ねてきており、実務においても専門家です。彼が自らを長とする実施部隊(企画、設計、建設管理、販売/賃貸を掌る)を社内に組織し、入札で土地を購入、開発計画を策定します。具体的な計画は外部のアーキテクト、構造のエンジニア、設備機械のエンジニアを駆使して意匠、構造、設備機械を組み込んだ開発計画を立て、担当政府機関の建設許可を取得後、ゼネコンに依頼して建設します。同時に不動産の販売会社に依頼して販売または賃貸を決めていきます。建物が完成すると購入者やテナントに引き渡し、最終修正箇所を確認してゼネコンの協力のもと補修していきます。

 
日本企業でも、最近は専門職の社員がかなり増えてきたようで、今後日本企業の意思決定機構がフラットになるのを後押しする状況が見えてきました。専門職社員とは弁護士、公認会計士、MBA、米国CPA、弁理士、司法書士、税理士、行政書士等の資格を所持している人材で、企業に社員として採用されるケースが増えています。日本企業もジェネラリストのみでなく専門家が社内で活躍する状況になってきました。

 

 

今月のスナップショット

リバーサファリのジャイアントパンダ・フォレストにいるレッサー・パンダです。パンダの前座の位置に配置されてます。俺様の方が主役だと抗議の瞬間をパチリ。(写真:丸茂 修)

文=ケルビンチア・パートナーシップ法律事務所・丸茂 修

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.240(2013年08月19日発行)」に掲載されたものです。

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