シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXビジネスTOP「固まらないものを固めたい」 -身体表現のアーカイブへの挑戦-

来星記念インタビュー

2015年8月3日

「固まらないものを固めたい」 -身体表現のアーカイブへの挑戦-

―これまでの作品作りについて教えてください。転機となった作品はありますか?

2002年に兵庫県の伊丹アイホールで作った「そこに書いてある」という作品ですね。観客全員に本を配って、本をめくりながら舞台が進行するという作品です。それまでは音楽や映像を使う、いわゆる身体を使ったコレオグラフィー(振り付け)だったのですが、そのときに初めて言葉を使って作品を作り出しました。
アーカイブの話にも繋がりますが、例えば作品を振り付けするときに映像などの現代的なメディアを使うと、より緻密で具体的で、決まった形になってくる。形や動きが全部見えてしまうと、僕にとっては不自由に思えたんです。その場限りの即興表現とは違うけれど、2度は作れないものを作りたいと思いました。動き自体が厳密には固まっていないものを、作品として固めたかったんです。そう考えたとき、言葉があれば、振り付けしたものを書き起こすことで自分の作品として示すことができ、そのうえで踊る人が自由に解釈できると思った。言ってみれば、伝統芸能に近いかもしれません。伝統芸能は師匠からマンツーマンで口伝えされますよね。そこには厳密さもあるけれど、歴史のなかでだんだん変わっていく部分もある。そういった、厳しいけれどもどこか自由というような作品作りを目指したかったんです。その方法が僕にとっては言葉でした。

―SIFA2015全体に関して期待することは?

作品を本物の線路で再現するということは、小道具や設備の面から見てもかなりハードルが高いので、まずは自分がやるべきことをしっかりやろうと思います。そのうえで、シンガポール建国50周年の節目でもありますから、これからずっと続いていくであろうフェスティバルの歴史のなかで、ターニングポイントになる良いフェスティバルだった、と言われるようなものになってほしいです。

―最後にAsiaX読者へのメッセージをお願いします。

それぞれ大活躍している7人の振付家が同じ時期に集まるということは、日本でもほとんどない貴重な機会です。どんどんデジタル化して変わっていく世界の中で、表現することと、それをいかに記録してどう再現するかは、権利問題などもあって大きな課題となっています。例えば電子書籍が便利でも、やはり紙の良さもあります。デジタルの便利さと身体感覚との両立という問題が今後どうなっていくのか、未来を模索するという意味でも「アーカイブボックス」という企画は身体表現とアーカイブの関係を考えることのできる、いい機会だと思います。ぜひ皆さんに見に来ていただきたいです。


 

SIFA2015は8月6日(木)から9月19日(土)まで開催。詳細はWebサイトhttps://www.sifa.sg/sifa/にて。

山下 残(やました ざん)

1970年大阪府生まれ。19歳からダンスを始め、現在は振付家、演出家として京都を拠点に活動中。観客に本を配り、ステージからのカウントに合わせてページをめくりながら本と舞台を交互に観せる「そこに書いてある」など実験的な作品を制作し、世界各地で発表している。

2015年8月3日
取材・文=門前 杏里

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