2014年12月15日
リーダーシップ編〈第3回〉しない勇気、すてる勇気
私は以前から、経営(仕事)や人生に対して「集中と選択」という原理原則についてお話をしていますが、この「集中と選択」を、より機能させるために必要なのが、「しない勇気、すてる勇気」です。先日おもしろい話を聞きました。松井証券の松井道夫社長がこのようにおっしゃっていたのです。
「経営を振り返ったとき、『良い決断』と『悪い決断』にはそれぞれ共通項があった。良い決断に共通していたことは『しない決断・やめる決断』だった。逆に悪い決断の共通項がみな『足す決断・加える決断だった』」
この件に関して私の経験からお話をさせていただくと、例えば、やらなければならないことが100あったとします。「すてる決断・しない決断」をし、40をやめたとします。差し引き60になりますが、人はその空いたすき間の40に対して、必ずまた何かを加えて100まで持っていこうとします。それらを繰り返していくと100の中の質がどんどん上がっていくことに気がつきます。
更に例を挙げてみると、洋服ダンスにある、たいして着もしない洋服などを、勇気を持って捨てます。すると必ず空いたスペースに気に入って買った新しい洋服が入り込んできます。それらを繰り返していくと、気付かないうちに洋服ダンスが気に入った良く着る洋服ばかりになって質がどんどん上がっていくのです。
しかし、人間不思議なもので、どんなに捨てる勇気を持って捨てても、やはり本能的に大切だと思うものはそう簡単には捨てません。だからこそ、意識をしてでもどんどん捨てたり、やめたりすることによって、本当に大切な仕事、本当に大切なものだけが残るのです。よってここに、本当に大切な物事への集中と選択が機能すると言うことです。
何かを捨てる時はガイドラインが必要になってきます。仕事に関して一番いいのは本能に従って「迷ったものは一度捨ててみる」。これが一番整理されます。もし、あとから困ったらまた拾い直せばいいだけです。
論理的なガイドラインがほしい場合は、以下の魔法の質問をぶつけてみてください。
「それをしないと何か困る?」
「そもそもその仕事をする目的は何?」(どの成果を出すために必要な仕事?)
特に困らないと判断した仕事は必要ないということですし、目的のない仕事は余計な仕事だと割り切って一度捨ててみるといいでしょう。
先日私の顧問先でこの話をさせていただき、あえて利益の出ている事業を売却し、本業に特化する経営システムを確立したところ、更なる飛躍をすることができました。
ぜひ皆さんも勇気を持って今やっている仕事や物を捨ててください。きっと新しい何かが見えてきますよ。
嶋津 良智(しまづ よしのり)
一般社団法人日本リーダーズ学会代表理事、リーダーズアカデミー学長。2度の株式上場を経験、日本・シンガポールなどアジアを中心に経営コンサルとして活動。世界14都市でチャリティービジネスセミナーも開催。最強の部下を育成し、最強の組織を作ることで業績向上に寄与する独自プログラム『上司学』が好評を博す。著書累計は100万部超。韓国・中国・台湾でも翻訳されている。
リーダーズアカデミーウェブサイト:www.leaders.ac
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.271(2014年12月15日発行)」に掲載されたものです。