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インドの今を知る

2011年5月16日

経済成長の持続にとって、大きな課題・他

経済成長の持続にとって、大きな課題

ウォール・ストリート・ジャーナルの記事「新卒者数は膨大、使える人材はごくわずか─インド就職事情」(2011年4月6日付)では、コールセンター会社である24/7カスタマー社の採用状況が紹介されていました。同社への高卒・大卒の応募者のうち、英語で効果的にやりとりができる者はごくわずかで、同社が採用できるのは応募者100人につきわずか3人しかいません。

インドは、高学歴の学生を毎年何十万人も世に送り出している国というイメージがあり、より高給取りの欧米の中堅社員層は戦々恐々としています。しかし、24/7カスタマーの経験からは、インド国内ではまるで違った実情が見えます。

企業経営者は、インドの学校教育は、高圧的な官僚機構と、丸暗記に重点を置いた教育によってむしばまれていると指摘します。政策で学費が安く、より多くの学生が学校に行きやすい状況ですが、一方で教員の給与や予算も低く抑えられ、ほとんどの地域でカリキュラムが時代遅れで現実に即していないようです。

インドの工科大学は現在計150万人の定員を有しており、2000年時点の39万人から4倍近くに増えています。しかし、ある評価テストによると、技術系大卒者の75%、一般大卒者の85%以上は、インドの高度成長グローバル産業で使いものにならない、ということです。政府や財界が労働力の不足を認識しているにもかかわらず、教育改革はすすんでいません。

ウィプロの人事担当巣者は、インドの教育制度は、暗記重視の方向性を改める必要があると言います。24/7カスタマーのインド国内担当の採用責任者は、大卒者一般について、「理解力や会話力がきわめて低い。それが当社の直面している最大の問題だ」と語ります。今年6万5000人の採用を見込んでいるタタ・コンサルタンシー・サービスは、職務要件と新卒者のスキルとの間の拡大する隔たりを埋めるべく、社内研修プログラムを拡大、インドに3,000校ある工科大学の質を評価した上で、300校に絞ってキャンパスでの求人活動を行っています。同社は工学的素養はないものの就職を希望する文科系の学生の採用と研修にも着手しています。

確かな一助

2011年4月10日付のMSN産経ニュースの記事「海外救援初のインド隊『住民のおかげで活動できた』」は、東日本大震災の被災地、宮城県女川町で3月下旬から約10日間、救援活動を展開し、4月8日に帰国したインド国家災害対策局対応部隊(NDRF)のアロック・アスワティ隊長(41)が翌9日に産経新聞のインタビューに応じたもの。アスワティ氏は「被災者の情報だけを頼りに、行方不明者を捜索することは極めて難しい作業だった」と振り返りました。一方、それでも困難な活動をやり通せたのは「(被災者たちが)隊員に対し外国人としてでなく、地元社会の一員として接してくれたおかげだ」と話しています。NDRFにとっては、今回が初の海外での活動となりました。

「ツナミにすべてが流された状態だった。あれほど悲惨な風景は見たこともなく、想像をはるかに超えていた」と、救助隊員歴17年のアスワティ氏さえ、その様子に言葉を失ったそうです。電気も水もなく、寒さは厳しく雨にも降られた中でのがれき撤去や行方不明者の捜索は、すべて手作業でした。

「あるのは住民の証言だけ。それをもとに、津波が引いた後を想定して場所を特定し作業した」とアスワティ氏。行方不明者を捜す住民にも、少しでも情報が欲しいインド隊にも、お互いがなくてはならない存在となりました。手作業は根気がいるものの、遺体を傷付けることがなくかえってよかった、とのこと。遺体発見後は必ず2分間の黙とうを捧げたそうです。インド隊は全日程で7遺体を収容、がれきや泥に埋もれたお金、貴金属、家族写真なども発見し回収しました。

最終日の4月6日に活動を終えると、女川町の被災者たちから、英語と日本語で感謝の言葉がつづられた1冊のノートをプレゼントされました。「やりがいを感じた瞬間でした」とアスワティ氏は顔をほころばせ、自分たちが確かに、町の一員だった証しのように感じられた、と言い、「女川は以前よりもさらに美しい町になると信じている。数年後に女川に行って、その復興ぶりをこの目で見るつもりです」と語っています。

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土肥克彦(有限会社アイジェイシー

福岡県出身。九州大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。東京本社勤務時代にインドでのソフト開発に携わる。2004年に有限会社アイジェイシーを設立し、インド関連ビジネス・サポートやコンサルティング・サービス等で日印間のビジネスの架け橋として活躍している。また、メールマガジン「インドの今を知る!一歩先読むビジネスのヒント!」を発行、インドに興味のある企業や個人を対象に日々インド情報を発信中。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.189(2011年05月16日発行)」に掲載されたものです。

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