2010年1月18日
『アイヒマン調書』ヨッヘン・フォン・ラング/小俣和一郎
2年ほど気になっていた人物がいる。ナチスの官僚として働き、ホロコーストの実質的なキーマンと見做された人物、アドルフ・アイヒマンである。
本書は、イスラエル警察による尋問記録である。アイヒマンは、「彼は組織の歯車の一つに過ぎず、決定権はなかった」と供述する。また、「強制収容所への移送を計画するのが彼の部署の仕事であって、虐殺には関与していない」点も強調している。本書を読む限り、彼がやむを得ず職務に忠実であったのか、それとも積極的に関与していたのかは判断できなかった。
「悪の凡庸さ」と哲学者アンナ・ハーレントが言っていたが、悪への入り口は至るところにある。アイヒマンは巨悪というよりも、小役人だったのだろう。私が彼の立場であったら、どうしただろうか?自分自身が処罰されることも厭わずに、時の権力に逆らうことができるのだろうか? 私の中にも凡庸な悪はあり、アイヒマンと何ら変わらないように感じる。
岩波書店/ISBN:978-4-00-022050-7
協力=シンガポール紀伊國屋書店
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.160(2010年01月18日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 茂見