2025年12月3日
Q.シンガポールにおける職場紛争解決法の導入について
目次
Q. シンガポールでは労働法の法制化が進められていると聞きました。職場の公正について最近の動向を教えてください。
A. 2025年10月14日、シンガポール議会は職場紛争解決法案(Workplace Disputes Resolution Bill)を提出しました。本法案は、個人が職場での差別について、将来または現在の雇用主に対して申し立てを行う際の手続きについて定めたものです。
本法案は、2025年1月8日に議会で可決された職場公正法案(Workplace Fairness Bill)を補完するものです。当該職場公正法案は、雇用主が規定の保護特性を理由に不利な雇用の決定をすることを禁止し、職場差別から従業員を保護することを目的としています。
両法案は、職場公正法(Workplace Fairness Act)を構成するものであり、能力主義に基づいた公正かつ革新的な雇用慣行を確保することを目的としています。両法案は、2027年に施行される予定です。
Q. 職場紛争解決法案はどのような企業に適用されるのですか。
A. シンガポールの全ての雇用主に適用されます。現在および将来の従業員が保護の対象となります。職場公正法案と同様に、従業員が25人未満の雇用主には適用が除外されています。しかし、この適用除外は5年以内に見直される予定です。
Q. 雇用主、従業員について教えてください。
A. 雇用法1968(Employment Act 1968)によれば、雇用主とは、雇用契約に基づき、個人を雇用する者です。これには、政府、公的機関、代理人、管理者、関連する業務、事業、取引の管理責任を負う者が含まれます。
従業員とは、雇用契約に基づいて雇用される個人です。正社員、パートタイム、派遣社員、契約社員が含まれます。ただし、船員、家事労働者、公的機関に勤務する者は従業員には該当しません。
Q. 従業員が職場差別を受けたと考えられる場合、どのような手続きをしたらいいのでしょうか。
A. 従業員はまず、雇用主の社内苦情処理手続きに従い懸念を申し立てる必要があります。社内で解決が困難な場合、政労使三者紛争管理連盟(Tripartite Alliance for Dispute Management)における調停を検討します。調停の請求は、以下の所定期間内に提出しなければなりません。

調停でも未解決の場合、裁判所へ申立てを行うことになります。以下の通り、請求金額により管轄裁判所が異なり、各裁判所での手続きの概要は以下の通りです。

雇用前の請求(差別的な採用決定等)については、雇用関係が成立していないため、補償額の上限はS$5,000となります。
Q. 従業員が職場差別に対する申立てについて、禁止されていることはありますか。
A. 従業員は以下の場合、申立てを行うことができません。
(1)解雇について
ア 同一の解雇事由に基づく同一の解雇について、裁判所若しくは仲裁裁判所に係属中であるまたは既に決定がでている場合。
イ 従業員が同一の解雇事由に基づく同一の解雇に関して、労使関係法1960(Industrial Relations Act 1960)または退職・再雇用法1993(Retirement and Re-employment Act 1993)に基づく申立てを行い、当該申立てが取り下げされていない、または労働省大臣による決定がされている場合。
(2)再雇用について
従業員が同一の理由による再雇用に関して、労使関係法1960または退職・再雇用法1993に基づく申立てを行い、当該申立てが取り下げされていない、または労働省大臣による決定がされている場合。
一方で、従業員が職場公正法に基づく申立てを行った後、同一の理由による労使関係法1960または退職・再雇用法1993に基づく申立てを行った場合は、職場公正法に基づく申立てを直ちに中止しなければなりません。


