2018年3月26日
人のつながりの創生へ マレー鉄道の歴史と未来
最後の一般開放で30,000人が旧駅に別れ
廃線後も駅舎やプラットフォーム、線路の一部が残されたタンジョン・パガー駅。2015年から祝日のたびにシンガポール国土庁主催で一般開放されてきましたが、再利用のための改築計画発表に伴い2016年12月25日が最後の一般開放日となりました。『Shin Min Daily News(新明日報)』によると30,000人がタンジョン・パガー駅に別れを告げに訪れ、この日はライブコンサート、バルーンアーティスト、ポップアップマーケット、無数の電灯を線路に灯した装飾と、盛りだくさんの一日となりました。飛行機より安く、バスよりも安全なマレーシアへの交通手段が、この鉄道でした。観光客や鉄道ファンだけでなく、子供の頃から鉄道に親しんできたローカルの人々にとって、思い出が交錯する感傷的な一日となったことでしょう。廃線後、一般開放だけでなくファッションショー、写真展やテレビドラマの舞台などにも同駅が利用され、多くの人が行き交う場所でしたが、工事終了まで駅の中を見ることは、できなくなったのです。
旧駅と鉄道跡はコミュニティをつなぐ存在に
79年の歴史を終えた、タンジョン・パガー駅と旧マレー鉄道の跡地ー。都市再開発庁の発表によると、サークルラインの新カントンメント駅がつくられ、多目的コミュニティ・スペースとして再利用されることになりました。鉄道ギャラリー、展示スペース、講堂やカフェなどアートクラブ的要素を含んだ施設が予定されています。建物の保存についても、シンガポール政府は“プラットフォームの天蓋は、建築、歴史的、社会的意義が深い記念建造物として、旧鉄道の歴史や思い出において重要な存在。天蓋構造は解体保存され、新駅開設時に完全に復元する”と発表しています。また、旧マレー鉄道跡地に関しては、2015年春に開催された国際コンペティションのマスタープラン部門でシンガポールの『ティエラ・デザイン』と、日本の『日建設計』による「LINESOFLIFE(ラインズ・オブ・ライフ)」が優勝。東西を分断する24キロメートルの旧鉄道跡の周辺にある、異なる生活形態のコミュニティがパブリックスペースを通してつながるコンセプトで、プラットフォームなど21ポイントはジョギングの休憩施設などに再利用されることで、思い出が継承されていきます。サイクリング用道路、展望デッキなどアクティビティステーションも設置されるそうです。旧駅が昔コミュニティ・スペースとして人々をつないだように、新駅とマレー鉄道跡も“人のつながりの創生”という役割を持って生き続けることでしょう。
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.332(2018年4月1日発行)」に掲載されたものです。写真・取材: 舞 スーリ