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社説「島伝い」

2008年3月3日

KYと言われたくない

昨年日本で流行語大賞の候補にもなった「KY」。「空気読めない」の略で、場の空気に反するようなトンチンカンなことを言う人のことを指したり、そういう人に対して「空気読めよ」という意味で使ったりする、一種の若者言葉です。2007年夏の参院選で自民党大敗後に続投を表明したり、その2ヵ月後に突然退陣表明したりと、お騒がせだった安倍元首相に対して使われたあたりから一気に広まりました。

 
「空気読め」という言い方自体は以前から存在していて、周りが見えずに場違いな言動をする人に対して使われることが殆どです。良く言えば他人の気持ちを慮って行動する、悪く言えば他人の目を気にして物をはっきり言わない日本人の多くにとって、「空気読め」はできれば言われたくない言葉でしょう。

 
バブル期に石原慎太郎氏と盛田昭夫氏の共著『「NO」と言える日本』という本が話題になりましたが、それとは対照的なことが、日本でバブルがはじけた後の1994年にシンガポールで起きました。前年にクイーンズタウン周辺で仲間の友人たちと車にペンキで落書きしたり、卵をぶつけたり、盗んだ物を所持していたなど諸々の罪で、アメリカ人高校生がむち打ちの判決を受けました。悪質ないたずらとはいえ、一打でも気を失うほどの激痛で、一生消えない傷を負わせるような残酷な刑を科すのは行き過ぎだ、とアメリカのメディアは猛反発、ついには当時のクリントン大統領がシンガポール政府に抗議しました。国際世論も非人道的だと批判的でした。しかし、リー・クワンユー上級相は「西洋では個人が社会より尊重されるが、アジアでは、良い社会が個人の自由よりも重要視される」と反論、アメリカ人高校生は当初の6回から4回に減刑されたものの、むち打ち刑を受けることになりました。

 
社会の秩序を守るために厳罰で臨むという政府の姿勢は、シンガポール国民の支持を得ただけでなく、他の国々でも評価され、後に同様の制度を導入した国や地域もあったようです。アメリカからの反発や国際世論を気にして刑を取りやめていたら、21世紀の国際社会の中で、シンガポールは小国ながらここまでしっかりと存在感を示せる国にはなっていなかったかもしれません。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.117(2008年03月03日発行)」に掲載されたものです。

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