シンガポールで大卒者の解雇が増加する中、専門家は「大学卒業資格が雇用の安定を保証する時代ではなくなっている」と指摘し、労働者に対してキャリア戦略の見直しを呼びかけている。
人材開発省(MOM)が発表した2026年第1四半期の雇用統計では、解雇者数が増加し、特に大学卒業者や管理職・専門職・技術職(PMET)への影響が目立った。これまで比較的安定した職種と考えられていたホワイトカラー層にも、人員削減の波が広がっている。
専門家によると、背景には企業によるオフショアリング(海外移転)の拡大や人工知能(AI)の急速な普及がある。従来は大卒者が担っていた事務業務や分析業務、管理業務の一部が自動化される一方、企業はより専門性の高いスキルを持つ人材を求めるようになっている。
また、企業の採用方針も変化している。学歴そのものよりも、実務経験やデジタルスキル、問題解決能力などを重視する傾向が強まっており、「どの大学を卒業したか」よりも「どのような価値を提供できるか」が重要視されるようになっている。
特に40代以上の中高年専門職では、長年同じ業務に従事してきた人ほど環境変化への対応が難しくなるケースもあり、継続的な学び直し(リスキリング)の必要性が高まっている。
一方で、シンガポールの雇用市場全体が悪化しているわけではない。医療、介護、サイバーセキュリティー、AI、データ分析、グリーンエネルギーなどの分野では依然として人材不足が続いており、専門性を持つ人材への需要は堅調である。
専門家は、「大卒資格は依然として重要な基盤だが、それだけで雇用の安定が保証されるわけではない」と指摘する。今後は卒業後も継続的に新しいスキルを習得し、市場価値を高め続ける姿勢がこれまで以上に重要になるという。
今回の雇用環境の変化は、シンガポールにおけるキャリア形成の考え方が大きな転換点を迎えていることを示している。
