シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXニュースTOP詐欺犯とマネーミュールに鞭刑導入

政治

2025年11月7日

詐欺犯とマネーミュールに鞭刑導入

 シンガポール国会は11月4日、「刑法改正法案(Criminal Law Miscellaneous Amendments Bill)」を可決し、詐欺犯罪に対する鞭刑の導入と刑罰強化を正式に決定した。これにより、詐欺シンジケートの構成員や銀行口座提供者(マネーミュール)も鞭刑の対象となる。
 
 新法では、詐欺犯に対し最低6回から最大24回の鞭打ちが科され、銀行口座やSIMカード、Singpass情報を提供したマネーミュールも最大12回の鞭刑を受ける可能性がある。内務省上級国務大臣シム・アン氏は「詐欺は現在、全犯罪の60%を占める最も深刻な犯罪形態」と指摘し、2020年から2025年上半期までに約19万件、被害総額は約37億Sドル(約3,880億円)に達したと明らかにした。2025年7〜9月の3カ月間だけでも、少なくとも1億8,710万Sドルが詐欺で失われたという。
 
 この鞭刑導入は、ジュロンGRCのタン・ウーメン議員が2024年3月の予算審議で「シンガポールは詐欺犯に対して甘すぎるのではないか」と提起したことを受け、内務省が検討の末、導入を決めたもの。一方で、他の一部犯罪では鞭刑を見直す方針も示された。鉄道法の「列車妨害」など8件の罪では、社会状況の変化を踏まえて鞭刑が廃止される。シム氏は「これらの改正は犯罪への姿勢を緩めるものではなく、現代の実情に合わせた再調整」と説明した。
 
 改正法では、性犯罪やオンライン犯罪への罰則強化も盛り込まれた。わいせつ画像を10人以上に送信した場合の刑期は最大2年(従来3カ月)に延長され、未成年の場合は最大4年となる。Telegramグループ「SG Nasi Lemak」事件のような被害再発を防ぐ狙いがある。また、AIによる性的画像・動画(ディープフェイク含む)を無断生成・配布する行為も明確に違法化され、児童を描写したリアルなCG画像も児童ポルノとして扱われるよう改正された。対象年齢は国連基準に合わせ、16歳未満から18歳未満に引き上げられている。
 
 さらに、国外での児童買春や性的グルーミング(誘惑行為)も処罰対象に加わり、被害者が14歳未満なら最長7年、14〜17歳なら最長5年の懲役刑が科される。弱者虐待や公務員へのドクシング(個人情報晒し)への罰則も強化され、弱者を虐待して死亡させた場合の刑期上限は20年から終身刑または30年に引き上げられた。これは2016年に5歳児が熱湯をかけられ死亡した事件を受けた措置である。
 
 また、公務員に関する虚偽情報を伴うドクシング行為も新たに犯罪化され、最長3年の禁錮または最大1万Sドルの罰金が科される。16〜17歳の少年犯罪者も重罪の場合は成人と同様の実刑・矯正訓練・鞭刑を受ける可能性がある。貴金属取引業者への新たな規制も導入され、購入した品を加工・溶解するまでの待機期間が3日から5日に延長された。警察が盗品を追跡・回収するための時間を確保する狙いがある。
 
 法案審議では11人の議員が発言し、賛否を交わした。ジュロンGRCのシエ・ヤオチュアン議員は「詐欺は麻薬犯罪に匹敵する社会的被害をもたらす」として厳罰化を支持。野党・労働者党(WP)のシルビア・リム議員は「鞭刑の抑止効果には疑問がある」としつつも、「詐欺犯への同情の余地はない」と述べた。最終答弁でシム氏は「厳罰は対策の一部にすぎない。社会全体でテクノロジー、教育、若者への啓発を組み合わせ、詐欺を根絶する」と強調し、「たとえ間接的でも詐欺を手助けすれば、法の厳罰が待っている」と述べ、政府の断固とした姿勢を示した。

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXニュースTOP詐欺犯とマネーミュールに鞭刑導入