シンガポール国会は11月4日、職場差別防止を法制化する「職場公平法(Workplace Fairness Act, WFA)」の第2法案を可決した。
これにより、2027年末までに職場での公平な待遇を保障する新たな法制度が施行される見通しとなった。
1月に可決された第1法案では、雇用者の義務や保護対象属性(年齢、性別、婚姻・妊娠・介護責任、国籍、人種、宗教、言語、障害、精神健康など)が定義された。今回可決された第2法案は、紛争解決の枠組みや請求上限、関係機関の権限を明確化するものである。
労働力省のタン・シーレン人材開発相は「円滑な施行には雇用主・労働者双方の十分な準備が必要」と述べ、施行まで約3年の猶予期間を設ける理由を説明。労働者の権利意識向上や調停員の訓練にも時間を要するとした。
新法では、まず企業内での苦情処理を優先し、それでも解決しない場合に調停へ進むことが求められる。調停が不調に終わった場合のみ、雇用請求審裁所(ECT)や高等裁判所での審理が可能となる。ECTは請求額25万Sドル以下の案件を扱い、弁護士を付けずに迅速かつ低コストで解決できる仕組みだ。
また、TADM(労使紛争調停機構)の調停員には、複雑な案件に対応できるよう法的知識やインクルーシブ対応の訓練が課される。25万Sドルを超える高額案件は高等裁判所で審理される。
一方、悪意ある訴訟の乱発を防ぐため、裁判官が無根拠な請求を却下し、必要に応じて訴訟費用を請求人に負担させる権限も導入される。繰り返し不当な訴えを行う者には、将来的に提訴制限が課される可能性もある。
国会審議では18人の議員が発言し、労働者と雇用主の「力の不均衡」や、脆弱な立場にある労働者への支援策などをめぐって議論が交わされた。特に、申立期限の柔軟化や被害者の心理的負担軽減のための調停免除措置を求める声が上がった。
タン氏は最終答弁で、従業員25人未満の小規模企業については当面適用を猶予し、施行5年後に見直す方針を示した。また、正当な理由がある場合には申立期限の延長も認めると述べた。
政府は今後、法律の内容や判例をまとめたハンドブックを発行し、雇用主・労働者双方への教育・啓発活動を進める。今回の法案可決により、シンガポールはアジア地域で最も体系的な職場差別防止法を備えた国の一つへと歩みを進めることになる。
職場公平法案が国会で可決
