シンガポール政府がリー・クアンユー初代首相の旧邸「オックスリー・ロード38番地」を国家記念物として指定し、公園など公共空間として再開発する方針を示したことを受け、周辺住民の間で交通渋滞や違法駐車への懸念が広がっている。
オックスリー・ロードで50年以上暮らすジャスパー・タン氏(58)は、「ここ数年でバスやトラックなど大型車の通行が増え、すでにオクスレイマンションでは違法駐車が続いている。もし観光客が訪れるようになれば状況は悪化する」と語った。現在は静かな住宅街だが、公園化すれば混雑や騒音が懸念されるという。
「この地区は公共施設を受け入れるような構造ではない。道路も2車線しかなく、駐車場の出入り口にはゲートも警備員もいない」と同氏。すでに外部の車が敷地内に侵入し、駐車や洗車を行うケースがあるため、水道ポンプを施錠する措置を取っているという。
近隣のロイドマンションの住民も同様に「違法駐車が増える」と懸念。物件入口には交通コーンが設置され、住民以外の進入を防いでいる。一方で、同地区の一軒家に住む22歳のニコリーン・タンさんは「観光客が増えれば、自宅を使った小規模ビジネスが生まれるかもしれない。若者にとっては好機」と前向きに捉える声もある。
不動産専門家のカラムジット・シン氏(Delasa社CEO)は、「公園化するなら観光バスの乗降場所や駐車場の確保が不可欠」と指摘。政府が周辺の敷地も取得して公園を拡張する可能性についても注目が集まる。
一方、モーグル.sgのニコラス・マク主席研究員は「周辺の土地容積率が引き上げられなければ再開発の動きは限定的」と分析。ハットンズ・アジアのマーク・イップCEOも「政府が2階建て制限を維持すればデベロッパーの関心は高まらない」と述べた。
政府は現時点で「周辺物件の取得は検討段階にすぎない」としているが、地域住民の間では生活環境の変化に対する不安と、国家的遺産保護への理解が交錯している。隣接する住宅に20年間暮らすイー夫人は、「もし国のために必要なら、シンガポール人として協力すべき」と話しており、記念化の是非をめぐる議論は今後さらに広がりそうだ。
オックスリー・ロード38番地の記念物化計画に住民懸念
