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政府、リー・クアンユー氏邸を国家記念物指定へ

 シンガポール政府が、初代首相リー・クアンユー氏の自宅「38 オックスリー・ロード」を国家記念物に指定する方針を示したことに対し、次男のリー・シェンヤン氏は11月3日夜、「人民行動党(PAP)政権は父の明確な遺志を踏みにじった」と強く非難した。
 
 同氏はFacebookで声明を発表し、「父は自宅を完全に私的な空間と考えていた。PAP政権は、父が一貫して望んだ“自宅の完全な解体”という意志を無視した」と述べた。リー氏は2024年10月、都市再開発庁(URA)に邸宅の解体許可を申請していたが、11月3日に政府から保存予定通知を受け取ったという。
 
 同日、国家遺産局(NHB)は、同邸宅が「歴史的価値と国家的重要性を有する」として保存に値すると発表。文化・地域社会・青年担当代行大臣デイビッド・ネオ氏がこの勧告を受け入れ、国家記念物として官報指定する意向を明らかにした。保存命令が正式に出された場合、政府は土地を取得し保護する方針である。
 
 リー・シェンヤン氏は、父が「記念碑化を嫌っていた」と強調し、「PAPは父の理念と価値観をもはや尊重していない」と批判。今後11月17日までに異議を提出でき、ネオ氏がそれを精査したうえで最終判断を下す予定だ。
 
 リー・クアンユー氏は1940年代半ばから2015年の死去までこの邸宅に居住。19世紀に建てられた平屋のバンガローは、PAP創設の舞台でもあり、独立前の政治的転換を話し合う拠点でもあった。
 
 同邸宅は、リー家の遺産問題を巡る長年の対立の中心でもある。2015年の遺言開示後、長男リー・シェンロン首相は「政府の判断次第で代替案も考慮できる」としたのに対し、シェンヤン氏と妹リー・ウェイリン氏は「父は妥協なく解体を望んだ」と主張。対立は2017年にSNS上で表面化し、兄妹が首相を公然と批判する事態となった。
 
 ウェイリン氏の死去(2024年10月)後、シェンヤン氏は「家族のための小規模住宅を新たに建設する」として解体申請を行ったが、NHBは直後に調査を開始し、URAは審査を保留。その後も同氏は現首相ローレンス・ウォン氏に判断を求めており、「政府は結論を先延ばしにしている」と繰り返し批判している。
 
 今回の政府決定により、38 オックスリー・ロードをめぐる家族の対立は、再び政治的・国民的論争の焦点となりつつある。