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シンガポール、農業目標「30 by 30」を撤廃

 シンガポール政府は、2030年までに国内の栄養需要の30%を自給することを目指した「30 by 30」目標を撤回し、新たに2035年までに繊維(野菜類)20%、たんぱく質(卵・魚介類)30%を国内生産で賄う方針を発表した。11月4日に開催された「アジア太平洋アグリフード・イノベーション・サミット」で、持続可能性・環境相グレース・フー氏が明らかにした。
 
 フー氏は「土地制約や高コスト、資金難などにより農業の発展は遅れており、現実的かつ持続可能な目標へと再設定した」と説明。陸上交通庁(SFA)によると、2024年時点で国内消費に占める自給率は繊維8%、たんぱく質26%であり、特に葉菜類やキノコなどの生産比率向上が課題とされる。
 
 政府は同時に、複数の農場が共用設備を使ってコストを削減できる「マルチテナント型農業施設」の実現可能性調査を開始した。この施設は、アクアカルチャーや温室栽培など異なる農場が同一拠点で操業し、電力・包装・物流などを共同利用する構想である。SFAのダミアン・チャン長官は「実現すれば世界初の試みとなる」と述べ、調査は1~1.5年を要する見込みだ。
 
 一方で、培養肉や植物由来の代替たんぱく質については、高コストや消費者の受容度不足から短期的な食料安全保障策には含めないと明言。ただし、将来的に国際的に競争力を持てば、食料供給の一翼を担う可能性があるとした。
 
 政府は新たに「輸入多角化、国内生産、備蓄、国際連携」の4本柱で食料安全保障を強化する。特に「国際連携」は、他国との政府間協定により、食料輸出制限の回避を目的とする新たな枠組みである。2025年10月には、ベトナム(コメ)およびニュージーランド(必需食品)との初の協定を締結した。
 
 わずか全土の1%しか農地に割けない中、フー氏は「困難な状況でも農業を見捨てない」と強調。今後も都市型農業の生産性向上と価格安定化を図り、気候変動に強い持続的な食料供給モデルを構築していく方針である。