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政治

2025年10月15日

職場差別の救済手続を明確化 新法案で従業員が正式に申し立て可能に

 職場での差別を受けた労働者が正式な救済を求める手続が、シンガポールで初めて法的に整備される見通しとなった。10月14日に国会で提出された**「職場公正(紛争解決)法案(Workplace Fairness (Dispute Resolution) Bill)」**は、2027年に施行予定の新しい職場公正法の中核をなすものである。
 
 この法案により、職場差別の申立人はまず社内の苦情処理プロセスを通じて問題を提起し、それでも解決しない場合には調停(mediation)を経て、最終的に裁定(adjudication)に進む正式な手続が設けられる。これは、不当解雇や給与未払いなど既存の労働紛争手続と同様の構造となる。
 
 今回の法案では、25万Sドル以下の請求は雇用請求審裁所(Employment Claims Tribunals=ECT)が扱い、25万Sドルを超える案件は高等裁判所が審理する。これは従来の給与・不当解雇請求(2〜3万Sドル上限)に比べて大幅に引き上げられた。全国労働組合会議(NTUC)のパトリック・テイ副書記長は「新たな上限設定により、管理職や専門職もECTでの救済が受けやすくなる」と評価した。
 
 人材省(MOM)は「高額請求を想定しているわけではなく、大多数の差別事案をECTで迅速かつ公平に処理できるようにするため」と説明。審理はすべて非公開で行われるが、判決文は公表可能であり、違反者が刑事処分を受ける場合は公開裁判で扱われる。
 
 ECTでは弁護士による代理は認められず、裁判官が当事者に証拠や論点整理を指導する。労働者・雇用者ともに条件を満たせば労働組合による代表を受けることも可能である。
 
 また、法案では申し立て期限も明確に定められた。採用段階での差別(面接・求人応募など)は「不利益決定」を知ってから1ヵ月以内、在職中の事案は6ヵ月以内、退職時に関するものは最終勤務日から1ヵ月以内に調停申請を行う必要がある。妊娠や負傷など特別な事情がある場合は例外が認められる。
 
 MOMは「労使・政府が一致して、職場の調和を最優先にしつつ、公平で理解しやすい紛争解決制度を設計した」と強調している。

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