シンガポールは観光産業において「質」を重視する戦略を進めており、世界水準の施設やイベント投資が続いている。しかし一方で、地元住民の間では観光施設の利用料金が高額であるとの声が根強く、国内観光の敷居を高めているとの指摘もある。
2025年にはマンダイ・ワイルドライフ・グループの「レインフォレスト・ワイルド・アジア」やリゾート・ワールド・セントーサの「シンガポール・オーシャナリウム」、ユニバーサル・スタジオ・シンガポールの「ミニオンランド」といった大型施設が開業し、観光資源は拡充している。さらにマリーナベイ・サンズは103億Sドル規模の新複合施設を、リゾート・ワールドは68億Sドル規模の再開発を発表し、高級ホテルや大型アリーナを整備する予定である。
一方、地元住民からは「家族で訪れるには高すぎる」との声もあり、STフォーラムには学校休暇中の割引やSG60バウチャーの活用を求める提案が寄せられた。世界経済フォーラムの調査でも、シンガポールは観光インフラの質では1位となる一方、価格競争力ではアジア太平洋地域最下位と評価されている。
シンガポール観光局(STB)は「低価格路線は現実的でなく、付加価値と質で勝負すべき」と強調。施設側も国際的知的財産との提携や新規イベント導入で差別化を図っており、ユニバーサル・スタジオではハリー・ポッター、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイでは映画『ジュラシック・ワールド』とのコラボ企画が展開された。
また、地元住民向けにはシニア割引や季節パスなどの特典も存在するが、周知不足との指摘もある。例えばマンダイ・ワイルドライフではシニア向け60Sドルパスが提供され、MBSやケーブルカーも住民割引を用意しているが、十分に知られていないのが現状である。
調査によれば、7割以上の住民が「観光事業は生活の質を高めている」と評価しており、STBは今後も観光の質向上と地域社会への還元を両立させる方針である。
シンガポール観光「質の追求」路線 地元住民からは価格への懸念も
