AsiaX

宗教がシンガポール人のアイデンティティに重要性増す IPS調査で実態明らかに

 シンガポール国立大学傘下の政策研究所(IPS)が8月20日に発表した調査報告によれば、宗教や精神性は近年、シンガポール人のアイデンティティにおいて重要性を増している。全国4,000人を対象に実施された調査では、回答者の4分の3以上が「宗教や精神的な考えは人生で最も重要な要素の一つであり、他の価値観にも大きな影響を与えている」と答えた。
 
 一方で宗教実践の形は変化しており、集団礼拝や日常的な祈りが減少する一方で、瞑想や宗教関連メディアの利用が広がっている。研究チームは「こうした傾向は社会や宗教環境の変化を映し出している」と指摘した。新型コロナ禍で宗教団体がオンライン発信を強化したことや、瞑想が世俗的場面でも普及したことが背景にある。
 
 宗教的重要性を強く意識する割合は、イスラム教徒が約6割で最も高く、キリスト教徒38.4%、カトリック32.9%、ヒンドゥー教徒32.8%と続いた。仏教徒や道教徒でも重要性を認める回答が増加している。また、高齢層ほど信仰心が強い傾向が見られる一方、若年層は宗教知識を積極的に学ぶ傾向がある。
 
 研究者らは、宗教的アイデンティティの高まりが社会的支えとなる一方、公共空間や政策への影響力を巡り宗教間の摩擦を生む可能性もあると警鐘を鳴らした。シンガポールの宗教調和を維持する制度がこうした動きを抑制しているが、オンライン宗教メディアの影響など新たな課題に対応する調整が必要とされた。
 
 また、高齢化が進む中で宗教的配慮を反映した地域プログラム設計も求められるとした。全体として、宗教や精神性がシンガポール社会における結束や支えを強める一方、その存在感がより大きくなりつつあることが明らかになった。