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インディー映画館「The Projector」閉館

 シンガポールのインディー映画館「The Projector」が8月19日をもって営業を終了し、10年の歴史に幕を下ろした。公式インスタグラムでは、運営コストの上昇、観客の嗜好変化、世界的な映画館離れを主な理由に挙げ、「自主清算に入る」と発表した。これに伴い、以降に予定されていた上映やイベントはすべて中止され、前売り券や会員権、ギフト券の払い戻しは清算人を通じて行われると説明している。
 
 2014年にゴールデンマイル・タワーで開業したThe Projectorは、共同創設者のカレン・タン氏ら3人によって立ち上げられ、シンガポール国際映画祭や欧州映画祭をはじめ多くの映画祭を開催してきた。国内外のインディー作品上映に加え、詩の朗読会やヴィンテージマーケット、チャリティーイベントなど、多様な文化活動の拠点として知られてきた。近年はオーチャード・シネレジャーやリバーサイドに拠点を広げたが、運営の厳しさから段階的に閉鎖し、最後に残った本店も幕を閉じることとなった。
 
 創設者のタン氏は「廃館寸前の映画館を再生し、パンデミックを乗り越え、新たな拠点へと広げてきた。我々は全力を尽くしたが、この決断に至った」と述べ、観客や協力者への感謝を表明した。
 
 閉館の知らせに、観客やアーティストからは惜しむ声が相次いだ。若手詩人のクリスチャン・ヨー氏は「学生時代から通い、自分らしくいられる唯一の空間だった」と語り、他の利用者も「文化と芸術のサードスペースを失う」とその喪失感を訴えた。
 
 最終日には映画館を訪れた常連客がスタッフと別れを惜しみ、館内ではポスターなどが来場者に手渡された。The Projectorは閉館したが、その精神は観客やコミュニティの記憶に残り続けるといえる。