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生活習慣改善で2050年までに最大6億5,000万Sドルの医療費削減可能

 シンガポール国民が長期的かつ持続的に生活習慣を改善すれば、2050年までに最大6億5,000万Sドルの直接的医療費を削減できる可能性がある。これは、国立大学ソー・スイ・ホック公衆衛生学部の研究チームが行った、民族別の長期健康予測と経済影響を定量化した初のモデル研究によるもので、2025年7月に学術誌『Nature Aging』に発表された。
 
 研究は「Healthier SG」に沿って血圧管理、運動量増加、塩分摂取削減、これらを組み合わせた4つの介入シナリオを設定。2004〜2010年に2万近い参加希望者から抽出された1万4,465人(中華系47%、マレー系26%、インド系27%)の健康データを用い、2020年時点の高齢人口構成に再加重して30年間の疾病負担と費用を推計した。
 
 結果、生活習慣改善は高血圧や糖尿病などの慢性疾患増加を抑制し医療需要と費用の伸びを緩和するが、寿命や障害のない生活年数の延伸は3〜7%程度の高齢者に限られた。特に慢性疾患有病率の高いインド系とマレー系高齢者が予防策の恩恵を最も受けやすく、推計される生涯医療費はインド系が12万Sドルで最も高く、中国系9万7,000Sドル、マレー系9万Sドルであった。
 
 主執筆者のチンシア・チェン助教は「加齢の影響が大きく、生活習慣改善だけで疾病率を大幅に減らすのは難しい」とし、特に高齢期より若年期からの介入が効果的だと指摘。ナトリウム摂取は約9割が推奨量を超過しており、筋力トレーニング不足や慢性疾患管理の不十分さも課題とされた。研究は、早期からの予防戦略と民族別に応じた生活習慣プログラムの重要性を強調している。