2025年8月7日
シンガポールの公共交通利用、鉄道は回復も全体はコロナ前水準に届かず
2025年上半期、シンガポールのMRTおよびLRTの1日平均利用者数は前年より増加した一方で、バスの利用はわずかに減少した。だが、全体としての公共交通利用は、2019年のコロナ禍前の水準を依然として下回っている。
シンガポール陸上交通庁(LTA)が発表したデータによると、2025年1月から6月の1日平均公共交通利用者数は747万人で、2019年上半期の766万人と比べ約2.5%(19万5,000人)少なかった。専門家は、鉄道網の拡張に伴うバスから鉄道への移行や、働き方の変化がこの背景にあると分析する。
鉄道利用者数は2024年に完全回復し、2025年上半期には1日平均365万人と前年(357万人)および2019年(356万人)を上回った。一方、バス利用者数は382万人と、2024年の385万人および2019年の410万人を下回った。
通勤時間帯の利用も減少傾向にある。朝のピーク時(平日)の利用者は、2019年の155万人に対し、2025年は148万人にとどまった。NUSのティモシー・ウォン准教授は「在宅勤務や柔軟な勤務時間の普及が構造的変化をもたらした」と指摘する。
鉄道駅が住宅地に近づいたことも、バス利用の減少に影響している。SUTDのサミュエル・チャン博士は「徒歩や自転車で駅にアクセスできるようになり、フィーダーバスの利用が減った」と述べた。
一方で、SUSSのウォルター・ティセイラ准教授は、通勤集中が変わらない限り、利用者体験の改善は限定的だと指摘。雇用の分散や移動時間の分散が政策課題だと述べた。
2019年以降、シンガポールでは43kmの新鉄道が整備され、今後も環状線、ジュロン地域線、クロスアイランド線などが段階的に開業予定である。ただし、利用者数が伸び悩む中での鉄道拡張は、収益増を伴わないコスト増に直結する可能性もある。
それでも鉄道拡張による快適性・接続性の向上が利用者満足度に貢献すると専門家は期待しており、政府も引き続き公共交通サービス向上への投資を続ける方針である。


