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シンガポールの生活満足度、物質的豊かさより「心の健康」が最重要に

 シンガポールでは、生活の質に対する価値観が大きく変化している。7月24日に発表されたナイトフランク・シンガポールとイプソスの共同調査によると、シンガポール居住者の多くが「感情的・精神的な健やかさ(ウェルビーイング)」を、経済的安定や職の保証よりも「良い人生」の鍵として重視していることが明らかになった。
 
 この「クオリティ・オブ・ライフ(QoL)レポート」は、18歳以上の1,000人を対象に2025年前半に実施されたもので、ナイトフランク・シンガポールの創立85周年記念の一環として公表された。
 
 調査によると、「生活の質」で最も重要とされたのは「感情的・精神的な健やかさ」で、次いで「経済的安定」、「身体的健康」と続いた。物価高、子育てコスト、雇用の不安定さといった悩みがある中でも、人々は「心の安定」こそが真の生活満足度につながると考えていることが浮き彫りとなった。
 
 住宅選びにおいても、「医療機関へのアクセス(63%)」が「学校への近さ(14%)」や「残りのリース期間(20%)」よりも重視されており、「手頃な価格(92%)」「立地(90%)」「公共交通への近さ(68%)」は引き続き最優先事項とされている。
 
 また、集合住宅の共用設備としては「緑地や屋上ガーデン」が「プールやジム」といった運動設備や「バーベキューピット」などの社交スペースより高評価を受けた。
 
 職場環境では、「自然光と換気(68%)」「人間工学に基づいた家具」「集中できる静かな空間」が上位に挙がり、「ナップポッド」「シャワー室」「授乳室」などは3割未満にとどまった。
 
 働くうえでの満足度を左右する要素としては、「ワークライフバランスに関する制度(柔軟な勤務形態、有給休暇の充実など)」が8割を超え、「給与(73%)」「福利厚生(66%)」「企業文化(38%)」を上回った。報告書は「現代の働き手は、キャリア志向よりも休息・自律性・生活の持続可能性を重視している」と指摘している。
 
 レジャー面でも、「手頃な価格でアクセスしやすい」「自然の美しさや癒しの空間」が上位となり、「ナイトライフ」「季節イベント」「SNS映え」は下位にとどまった。調査は、今後は静かで内省的な娯楽への志向が強まり、活発なナイトライフは主流から外れていく可能性があると分析している。
 
 さらに、「オフィスやレジャー施設は住まいから20〜30分以内にあってほしい」という声が多数を占め、政府が掲げる「10分駅」「20分タウン」の都市ビジョンと合致している。
 
 調査を総括し、ナイトフランクとイプソスは「シンガポール人はもはや“物質的に良く生きる”だけでなく、“心地よく、うまく対応し、安定を得る”ことを生活の本質と見なしている」と述べ、今後の都市計画においては、緑や気候レジリエンスを重視した人間中心の街づくりが不可欠であると強調した。