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政治

2025年7月11日

シンガポール、無人運転車社会へ本格始動

 シンガポール政府は無人運転車(AV)の導入を加速させており、その将来像を探るため、6月下旬にジェフリー・シォウ運輸代行大臣率いる代表団が中国・広州を訪問した。視察先では、ロボタクシー企業Pony.AIが運営する自動運転ミニバンや、WeRide製の無人バスに試乗。乗員ゼロの車が自然に走行し、ステアリングが自動で回る光景に、参加者らは技術の進化を体感した。
 
 現在、広州市内では一定のエリアで有料ロボタクシーや無人バスの運行が試験的に行われているが、高速道路などではまだ安全要員の同乗が必要であり、本格展開には至っていない。今後の展望として、遠隔監視による運行も視野に入れているが、1人の監視員が何台の車両を担当できるかなど、技術と制度の両面で未解決の課題が残る。
 
 法制度面でも各国で対応が分かれる。中国では都市ごとの対応にとどまり、全国統一の法整備は未整備。英国は2024年に新法を成立させ、車両メーカーやソフトウェア開発者に責任を持たせる枠組みを2027年から導入予定である。シンガポールも2017年にAV試験を規制する法律を導入して以来、次のステップが求められている。
 
 社会面でも懸念は尽きない。AV導入によって生まれる新しい仕事に、現在の労働者が適応できるか、また歩行者やドライバーの注意力が低下する「過信」も問題視されている。2024年の米国調査では、91%のドライバーがAVを信用していないとの結果も出ており、事故やトラブルが信頼性に影を落としている。
 
 こうした中、シンガポールでは2025年にプンゴル地区での短距離無人シャトル運行が開始される予定で、Grab社も従業員向けに22人乗りAVシャトルの試験導入を発表した。段階的導入と安全要員の同乗を前提とし、住民の理解を得ながら進める方針である。AVは既存交通の代替ではなく補完として位置づけられている。
 
 とはいえ、中国・武漢ではロボタクシーの急速な普及がタクシー運転手の反発を招いたように、利害関係者の調整は不可欠である。市場拡大を急ぐあまり、既存の職業や社会制度にしわ寄せがいかぬよう、シンガポール政府にはリスクを公開し、国民との信頼関係を築きながら慎重に進める姿勢が求められている。

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