2025年3月13日
就労許可制度を改定 労働力不足の解消と地元雇用促進へ
シンガポール政府は2025年7月1日より、外国人労働者向けの就労許可制度を改定し、労働力不足の緩和と地元雇用の促進を図る。今回の改定により、企業は新規労働者の採用や育成の負担を軽減しつつ、長期的な労働力の確保が可能となる。
最大の変更点は、就労許可保持者の就労期間の上限撤廃である。現在は労働者のスキルレベルや出身国によって14~26年の上限が設けられているが、7月以降は現行の退職年齢である63歳まで就労が可能となる。これにより、長期間勤務する熟練労働者が増え、企業の運営の安定化が期待される。
例えば、シンガポールの造船企業「ストラテジック・マリン」に17年間勤務する施設管理担当のセツ・ラジニカント氏(48歳)は、今回の変更によりさらに5年間働けるようになる。彼は「雇用の不安が軽減され、キャリアを築きながら将来のための貯蓄ができる」と歓迎している。
また、製造業やサービス業における外国人労働者の採用枠も拡大する。9月1日からは「非伝統的な雇用元リスト(Non-Traditional Sources Occupation List)」に新たな職種が追加される予定であり、特に製造業ではオペレーター職の雇用が可能となる。対象国も拡大し、バングラデシュ、インド、ミャンマー、フィリピン、スリランカ、タイに加え、ブータン、カンボジア、ラオスからの雇用が可能となる。
ブータンの追加は特に注目されており、同国では1964年以来英語が公用語として教育に用いられているため、高い英語能力を持つ労働者の確保が可能となる。航空サービスやホスピタリティ業界では、すでにブータン人労働者の採用に関心を示す企業が増えている。
業界団体は今回の改定を概ね歓迎しているが、一方で医療費の増加や高齢労働者の体力に応じた作業環境の整備など、新たな課題への対応も求められると指摘する。また、プロセス産業(石油・化学・製薬関連の製造業)では、外国人労働者の割当枠や課税制度が2024年に引き締められたことから、依然として人手不足の課題は残るとみられる。
シンガポール製造業連盟(SMF)のレノン・タン会長は「今回の変更により、製造業が労働力不足を克服し、先端技術や自動化の導入を加速できる」と評価。また、政府の人材育成支援プログラム「スキルズフューチャー」を活用し、シンガポール人の雇用機会拡大にも注力すべきだと強調した。
さらに、外国人労働者枠を一時的に拡大できる「戦略経済優先分野向け人材(M-SEP)」制度の適用期間も5月1日より2年から3年に延長される。これにより、ハイテク製造業や自動化関連企業は、重要なプロジェクトの人員確保をしやすくなる。
一方で、2025年9月1日からはSパスの最低給与基準が引き上げられ、労働コストが増加する見込みである。特に利益率の低い業界では、従業員の構成見直しや生産性向上策の導入が求められるだろう。
総じて、今回の就労許可制度の改定は、外国人労働者の安定的な確保と、地元雇用の促進を両立させるためのバランスの取れた施策である。今後、企業は新たな制度に適応しつつ、持続可能な労働力確保戦略を構築する必要がある。