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政治

2021年10月11日

自宅療養制度・安全管理措置等の変更点まとめ

 10月9日、シンガポール保健省(MOH)は、自宅療養基準の拡大、ワクチン接種状況に応じた安全管理措置の拡大、検査方針の変更、水際措置の変更(注:日本は変更なし)、ブースター接種の拡充などについて以下のとおり公表した。
 
 シンガポールは9月27日に感染拡大を遅らせ医療を守るための「安定化フェーズ」に入り、この間にいくつかの対策を講じてきた。病院や療養施設の不足を補うためCOVID-19 Treatment Facility(CTF)を設置。人員の確保、IT技術の導入等により、軽症者・無症状者を自宅で無事に回復させるための「自宅療養プログラム(Home Recovery Programme(HRP))」の効率化を図ってきた。
 
 シンガポール保健省(MOH)は「この過去二週間、社交その他の活動を減らしていただいた全ての人に感謝申し上げます。皆様の取組により感染者数の増加スピードを遅らせることができました。しかしながら未だに感染はピークに達しておらず、感染者数の引き続きの増加・高止まりに備えなければなりません。」と述べている。
 
 感染者のほとんどは軽症か無症状で、ワクチンの接種を受けていない12歳以下の子どももほとんどが軽症・無症状。ただし、ワクチンの接種を受けていない高齢者は、感染時に重症化するリスクが著しく高くなっている。この集団(ワクチンの接種を受けていない高齢者)は全体から見ると1.5%だが、ICUでの治療が必要となった者または死亡した者のうち3分の2を占めるに至っている。
 
 よって政府は、ワクチンの接種を受けていない人を守るべく、ワクチン接種状況に応じた安全管理措置を拡大する必要があるとした。また、検査についても、理解しやすく、きちんと受検されるよう、シンプルにしていく。ワクチンについては、集団として免疫を高いレベルで維持していくため、医療従事者・フロントラインの労働者、施設の居住者・スタッフ、その後30歳以上のすべての対象者へブースター接種を開始する。
 

シンガポール国内の状況

 引き続き、感染者の大多数(98.8%)は軽症か無症状。これはワクチンの2回接種を終えた人の割合が83%という高い水準にあるためだとされる。過去2週間における重症者は423人だが、そのうちワクチン接種を受けていない人は53.9%。また、残りは他の疾患を持っている人だった。
 
 感染者の増加に伴い、ICUでの治療が必要な患者の数も時間をおいて増加しており、過去2週間では51人(その前の2週間は32人)。病院の収容能力は拡充している最中だが、病床使用率は上昇し、医療スタッフの負担は限界に達している。
 

自宅療養制度(Home Recovery Programme)

自宅療養基準の拡大

 9月15日のHome Recovery Programme(HRP)の開始以来、19,000人以上が自宅で療養しており、うち8,000人が全快し療養を終了している。社会がHRPに馴染んできたことや、対応する医療スタッフの経験値が上がってきたことを踏まえ、特に軽症者・重症者へ、HRPの対象を拡大していくべき状況だと政府は判断。若年層等の軽症・無症状の者もきちんとケアしつつ、医療リソースを重症者や危険な状態にある患者への対応に集中させることができるという。
 
 12歳から49歳までの者については、ワクチンの接種を受けていなくても重症化リスクが低く、自宅での療養が可能なことから、自宅療養の対象をこれらの者(ワクチンの接種を受けていない12歳から49歳までの者)に拡大する。また、70歳から79歳までのワクチンの接種を受けた者については、これまでのデータと、慣れない場所での転倒等のリスクを考慮すると、やはり自宅環境での療養(10月16日から開始)が安全だという。ただし安全確保のための措置として、療養者は各々に担当医療機関が割り当てられ、隔離療養中酸素濃度をはじめとした健康状態のモニターをしつつ、症状の悪化が見られる場合は早期に医療機関を受診する必要がある。
 
 5歳から11歳までの子どもについても、重症化する者がほぼおらず、親の下で療養させたいという要望が多かったことから、自宅療養が基本となる。1歳から4歳までの子どもについても、病院において自宅療養が適切と診断された場合には自宅療養とする。
 
 以上の変更は2021年10月10日から施行され、以下の者以外はHRPによる自宅療養が基本となる。
 
 1.50歳以上のワクチン非接種者・1回のみ接種者
 2.80歳以上の者
 3.1歳未満の者。また、1歳から4歳までの者で、病院で自宅療養が不適切と判断された者

※HPRの旧基準は、ワクチン接種済み、12歳から69歳まで、軽症又は無症状、他の重篤な病気がないこと等

 HRPによる自宅療養中は、医療支援が24時間受けられる。支援は既存の遠隔診療提供業者と、患者ケアを行うPublic Health Preparedness Clinicやポリクリニックの協力により実現。医療面以外で支援が必要な場合は「Home Recovery Buddy Hotline」(6874 4939)に連絡することが求められる。
 

自宅療養の解除基準(期間)

 感染した後、ウイルスは時間の経過とともに減少して検出されなくなる、或いは他者への感染力がなくなる。ワクチン接種を受けた者や子どもにおいては、ワクチン接種を受けていない者よりも早くこの過程が進むという。このため、HRPによる自宅療養となった者は、感染確認の後一定期間後に療養解除とし、更なる検査を行う必要はない。
 
 ワクチンの接種を受けた者や12歳以下の子どもについては、HRPによる自宅療養期間は10日。12歳を超えるワクチンの接種を受けていない者については自宅療養期間は14日となる。隔離(療養)終了に当たっては療養解除の電子通知が交付される。ワクチンの接種を受けている場合に、PCR検査での陰性の結果をもって7日目に療養解除とするこれまでの取扱いは廃止。
 

ワクチン接種状況に応じた安全管理措置の拡大

 疫学調査の結果、ホーカーセンター等の飲食店、小売店、ショッピングセンターには、ワクチンの接種を受けていない感染者や後に重症化した感染者がかなり多く訪問していることが分かっている。
 
 既にワクチン接種状況に応じた安全管理措置(vaccination-differentiated safe management measures (VDS))が導入されているが、ワクチン接種を受けていない者を守り、医療への負荷を下げるため、10月13日からVDSの対象をショッピングモール、集客施設、ホーカーセンター、コーヒーショップに拡大。企業は、可能な場合には期限前にVDSを導入することが推奨される。

 

※現行のVDSでは、ワクチン接種済みの2人までのグループで店内飲食が可。12歳以下の子ども、感染からの回復者、pre-event test(PET:イベント前検査)による陰性結果を所持する者も2人までのグループに入ることが可。

 VDSの拡大により、ホーカーセンターやコーヒーショップにおいても、一般の飲食店と同様にワクチンの接種を受けた者2人までのみ飲食が可能となる。要件を満たさない場合でもテイクアウトは可。また、ショッピングモールや集客施設も、入場できるのはワクチンの接種を受けた者2人までのグループとなる。詳細は各当局から発表される。
 

プライマリスクール

 10月7日の発表の通り、プライマリ1~6の生徒については、在宅学習の長期化を可能な限り避け、精神衛生の確保を図るという教育省の方針に基づき、11日(月)から安全を確保しながら段階的に対面授業に戻していく。プライマリスクールの登校再開にあわせて、厳格な安全管理措置を前提として、私立教育機関や課外学習等での12歳以下の生徒への対面授業も再開可能とする。ただし、生徒を守るため、可能な限り引き続きオンライン授業とすることが強く求められる。
 

検査方針の変更

 この数か月で検査・隔離制度が複雑なものとなり、分かりづらいものとなってしまっている事から、制度が大幅に簡素化される。主な変更としては、PCR検査は体調不良の者や有症状者(軽症:発熱、咳、疲労、味覚や嗅覚の消失、のどの痛み、鼻水、筋肉痛、下痢、吐き気、嘔吐。重症:息切れ、胸の痛みや圧迫感、言葉が発せなかったり動きが不自由になる。)に実施していくこととし、検査センターでの検査や感染者の接触者の検査等、体調良好な者への検査としては抗原迅速検査(ART)を利用していく。この方法でも、感染を早期に検出し、感染拡大予防のため自主隔離することによって、自身や周囲の人を守ることができるという。
 

陽性者の取扱いの変更

 新たな取扱いは以下の通り。
 
 1.検査で陽性となった体調不良の者は、医師を受診することが必要。その後基本的にはHRPによる自宅療養となるが、自宅が療養に適していない場合は適切な療養施設に入所可能。ワクチンの接種を終えているか12歳以下の場合は10日間、そうでない場合は14日間の隔離療養とし、それぞれの期間経過後療養解除。解除時の検査は行わない。
 
 2.検査で陽性となった体調良好の者は、72時間自主隔離することが必要。72時間経過後再検査を自身で実施し、結果が陰性であれば自主隔離を終了し通常の生活可。体調が悪くなった場合は医師を受診すること。
 
 これまで、感染者の接触者を細かく分類し、Quarantine Order、Health Risk Alert、Health Risk Warning(HRW)といった異なる措置が講じられてきたが、今後の措置は次のとおり、「7日間のHRW(ART自己検査結果に応じた措置)」に一本化される。
 
 3.HRWの通知を受けた場合、直ちに自己隔離に入り、その日にART自己検査を実施し、通知の指示に従ってその結果を登録する必要がある(通知を受けた日が1日目)。当該ARTの結果が陰性であればその日は通常の生活をしてよい。その後、2日目から7日目まで、ARTを実施し陰性でなければ外出してはならない。ARTの結果が陽性となった場合は上記2に従う。7日目は必ずARTを実施しなければならず、結果が陰性であればその後の検査は不要。
 
 改正は10月11日から施行される。現在何らかの措置の対象になっている人については、経過措置として例外的な対応がなされる。患者については、10日または14日の隔離療養を終了する必要がある。現在Quarantine Order中の人については隔離終了時のPCR検査は行われない。ART自己検査を行い結果が陰性であればその日は外出して構わない。7日をもってquarantineを終了、つまり上記3のとおりとすることができる。
 
 自宅での自己検査をサポートするため、10月22日から11月7日までに保健省(MOH)がSingPostによりARTキットを追加配布する。各世帯10個のパックの配布となる予定。
 

海外渡航に関する変更

水際措置の変更

 政府は定期的に海外のコロナの状況の検証や水際措置の見直しを行っており、今般、各カテゴリの変更を行った。変更後の分類と各水際措置はAnnex Dのとおりで、10月12日23時59分から施行される。水際措置は世界の状況に応じて引き続き見直されていく。
 

ワクチントラベルレーンの拡大

 シンガポールは9月8日からブルネイ・ドイツとVaccinated Travel Lane(VTL)を開始し、両国からワクチン接種を完了した者がシンガポールに一般渡航できるようになった。VTLは、低リスクの国からの渡航者に対し、定期的な検査を実施することでStay Home Noticeを免除するというもの。10月8日時点で、2,000人近くのVTP所持者がシンガポールに入国し、コロナの輸入症例はわずか2人であった。この2人は入国時検査で陽性が確認され速やかに隔離されており、入国後3日目及び7日目の検査で陽性になったというケースは現在のところ無い。
 
 ブルネイ・ドイツのVTLによる経験に基づき、さらにカテゴリ2の8か国(カナダ、デンマーク、フランス、イタリア、オランダ、スペイン、英国、米国)にVTLを拡大。短期入国者及び長期滞在者によるVTPの申請は10月12日に開始し、10月19日以降の入国が対象となる。
 
 また、韓国とも11月15日から共同でVTLを開始。短期入国者及び長期滞在者によるVTPの申請は11月8日から。ワクチン接種済みのシンガポール国籍者及び永住者はVTPの申請をする必要はない。
 
 全てのVTL国を対象として、VTL利用時検査の方法が変更される。10月19日以降VTLにより入国する者は、出発前48時間以内のPCR検査結果の提示とシンガポール到着時のPCR検査の受検のみが必要となり、シンガポール滞在3日目及び7日のPCR検査は不要となる。
 

ブースター接種の拡大

 60歳以上のブースター接種に加えて、10月3日に50歳から59歳までのブースター接種が開始された。10月7日の時点で約372,000人がブースター接種を受けている。50歳から59歳までの対象者の57%、60歳以上の対象者の72%が、接種を受けたか予約済みの状況だ。
 
 ワクチン接種に関する専門家委員会(EC19V)からは、以下の者についても、初回接種完了から6か月後以降に、Pandemic Special Access Route (注:シンガポールの暫定承認制度)のmRNAワクチン(注:ファイザー・ビオンテックまたはモデルナ)のブースター接種の対象とするよう勧告があった。
 
 1.医療従事者、フロントライン労働者
 2.施設居住者、スタッフ
 3.30歳以上の者
 
 保健省はEC19Vの勧告を採択。医療従事者とフロントライン労働者は業務上感染者と接触する頻度が高く、感染のリスクが高くなっている。刑務所や介護施設の居住者やスタッフも密集空間で生活しており、クラスター発生のリスクがあるとされる。また、30歳以上の者にブースターを拡大することで、全体として防護力を強化することができる見込み。
 
 10月9日から、医療従事者及びコロナ対策のフロントライン労働者で、初回ワクチン接種から6か月程度経ている者へのブースター接種を開始。また、様々な施設入居者及びスタッフへのブースター接種について調整が行われる。あわせて10月9日から、30歳以上の者で初回接種から6か月程度経ている者に対し、ブースター接種の予約を取るよう通知を開始。初回接種時に登録した携帯電話番号に、予約のためのリンクを通知するSMSが送信され、 www.vaccine.gov.sg で予約できる。ブースター接種はワクチン接種センターかPHPCで受けることが可能。
 

COVID-19に強いシンガポールに向けて

 政府はCOVID-19に強いシンガポールへの移行に向けて進んでおり、徐々に社会・経済の再開を進め、シンガポール経済にとって欠かすことのできない海外渡航を再開していくとした。ただ、今は、医療を守るため「安定化フェーズ」とすることが必要だという。

提供:在シンガポール日本国大使館

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