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2020年11月27日

自家農園で向上なるか?シンガポールの食料自給率

農園から食卓まで 食の自給を求めて

 シティーホール上空。灰色のビルの屋上の中でひときわ異彩を放つ爽やかな緑。それが、フーナンセンター屋上にオープンした日本料理レストラン「NOKA」の屋上農園だ。

 

緑溢れるフーナンセンターの外観

 
 「食の持続可能性」をコンセプトとしている「NOKA」にとって最大の課題は「今ある食材」を使って高級和食料理を作ることだ。「今ある食材」と聞いて、 「なぜ輸入した食材ではだめなのか」、「こんなに狭いシンガポールに野菜を育てる土地など一体どこにあるのか」と疑いの目を向ける人が多いだろう。シンガポールでは、「食材は輸入するのが当然」と考えられているが、地球温暖化や国際紛争により一気に食料事情が変化する可能性もあり得る。 また、シンガポール政府によると、2050年までに世界の野菜や穀物の収穫量は25%減少する恐れがあるという。「食べ物がない」という未来が待ち受けているかもしれないのだ。そのため、食料自給率を上げることはシンガポールにとって重要な課題である。
 

シンガポールの食料自給率

 食料自給率とは、国内で消費される食料の中の国内産の食料の割合だ。シンガポールの食料自給率はわずか10%足らず。つまり、食料の90%は外国からの輸入に頼っている。 しかし、一体どうやって食料自給率を上げればいいのだろうか。 これに対し、シンガポール政府は様々な対策を講じている。最先端の技術を用い、国内産の野菜、果物、肉、野菜の生産量を上げようとしている。水耕栽培やビルの屋上などを利用した都市農業により、2030年までに自給率を30%まで引き上げようという計画である。
 

「NOKA」の屋上農園

 

都市農業の現場から未来を語る和食シェフ

  「NOKA」の屋上農園はその一環で、シンガポールの食文化に「持続可能性」の概念を付与しつつ、日本の和食文化を広めようとしているのが「NOKA」のオーナー堰琢磨氏だ。堰氏は「自産自消」を経営理念として 、和食文化の普及に取り組んでいる。 「自産自消」とは、自分で作った野菜や果物などを食材として利用し、消費することである。堰氏は「open farming community」のコンセプトを取り入れ、レストランの隣に農園を持っている。「open farming community」とは食材となる野菜などを身近なところで育てることで、コミュニティーと自然をつなぐ役割を果たすコンセプトを指す。堰氏はアメリカやフランスで積み重ねた経験を生かし、自家農園で栽培した野菜を使ってアレンジし、独創的な和食を提供しようと努力している。
 

「NOKA」シェフの堰琢磨氏

「大事なのは諦めないこと」

 「農業は誰でもできることではないが、一番大切なことは努力とネバーギブアップの精神である。うまくいかないからといって、あきらめず、土や肥料を変えたりするなどして、改善を重ねていく忍耐力も必要だ」と堰氏は農業への思いを熱く語った。シンガポールの食料自給率の向上について尋ねたところ、堰氏は「シンガポールは土が少ない分、LEDや水耕栽培などの最先端技術を使って補うことができる」と述べた。

 

自家農園 自給自足への第一歩

 木のぬくもりあふれるシンプルな和風インテリアの店内。 窓ガラスから燦燦と射し込む自然の光の中で、「NOKA」を訪れていたクリステンセン・資子さんにお話を伺った。
 

レストランの店内

 
 「おでん、炉端焼きなどの一見普通のメニューですが、出てきた料理は鮮度が抜群で、歯ごたえもあり、とてもおいしかったです。一番驚いたのはおすしの中のハーブがパンダンリーフだったことです。どおりで味が想像してたものと違っていました。次は何が出てくるかわくわくしました。」
 

色鮮やかな料理の数々

 
 シンガポールの食料自給率について尋ねたところ、「みんながNOKAさんのように自家農園を持つのは難しいですが、NOKAさんが自分で育てた野菜で料理を提供しようという試みに刺激を受け、これから先、同じ志を持つレストランが登場し、シンガポールにも自給自足が根付いていくといいですね。私たちも自分のできる範囲で自給自足に貢献して、シンガポールの食料自給率が上がることを目指したいです。」と語った。
 

シンガポールでも自家農園は可能?

 シンガポールの食料自給率や自家栽培に関するアンケート調査も行った。回答者の中で、シンガポール産の野菜を支持していると答えた人は約8割だった。なぜかと尋ねたところ、「地元の産業を応援したい」、または「環境保護のため」 という理由をあげた人が多かった。また、シンガポールの食料自給率を上げるのは大切だと思うと答えた人は94%で、「NOKA」のようなレストランを支持する回答者が90%だった。
 
 しかし、他のレストランも「NOKA」のコンセプトを取り入れるべきだと思うと答えた回答者は22%にすぎなかった。人手・資金・シンガポールの気候・スペースなどの理由があげられた。また、自家栽培を長期間したいと答えた割合は5割にとどまっている。あげられた理由としては「野菜を植える時間がない」や「手間がかかりすぎる」 と答えた人が多かった。
 

自家農園を推進するには?

 調査結果をみると、シンガポールで自家栽培を奨励するためには、自家栽培の仕方や利点に関する教育が必要であると同時に、自家栽培をするスペースを増やす必要がある。回答者の大多数は「農業への興味が野菜を栽培する原動力だ」と答えたことから、ワークショップなど開催し、農業の楽しさを体験したり、喜びを感じてもらう機会を設けるのも大切なのではないだろうか。学校に小さな農園を作り、生徒達が生活の中で自然に自家栽培に触れる機会を設けるのも良いだろう。日本と同様、 農業大学や専門学校を設立し、そこで農業を学ぶだけでなく、農業をテーマとしたアニメやテレビ番組などを製作し、啓蒙活動も行うという方法もある。
 

持続可能な未来へ

 新型コロナウィルスで世界中の人々が苦しんでいる今、 食料自給率の重要さに人々は気づき始めた。ウィルスの影響で他国からの輸入量が減る恐れがあり、シンガポールの対策は急を要している。この小さなシンガポールにおいて食料自給率を上げることは決して容易なことではない。 だが、土地がない代わりに、シンガポールには最先端の技術、そして人々の力がある。シンガポール政府の対策に従い 、屋上を利用した都市農園を拡大するのみならず、水耕栽培、 家庭菜園を利用することで一人一人が貢献できるはずだ。
 
 「食料は輸入するもの」という固定観念をなくし、自給自足の文化を徐々に育て、ともに持続可能な社会を築いていこうではないか。シンガポール上空から、ビルの屋上一面に広がる鮮やかな緑に目を奪われる日が来るのもそう遠くないと私たちは信じている。
 

【取材・文】
シンガポール国立大学 日本語プログラム 
LAJ4203 Newspaper Reading (AY2019/2020 SEM2)
Wong Qing-Ning ; T Dillon Weijie Jaidharman; Soon Siong Yong Charis

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