大正期の秋田、ようやく一人前のマタギとなった富治は、地主の一人娘文枝を孕ませ村を追われてしまう。マタギとして生きることが許されず、やむなく銅鉱山で抗夫として働き始める。そして月日が経ち採鉱の腕が認められるまでになるのだが、時あるごとにマタギの血が疼きはじめる。
彼の旅路には、様々な出会いと別れがそして愛と死があった。当時の風俗を背景に描かれた人間模様は生々しい。そして最後にたどり着いた妻と子との幸せな生活。それでもなお、富治は過酷な自然のなかでの狩猟に命をかける。彼を山へと向かわせるものは何だろうか。
雪深い深山を舞台に、彼らが獲物を追う場面での息を呑むほどの緊張感あふれる描写は素晴らしい。そしてラストシーンは特に感動的である。第131回直木賞、第17回山本周五郎賞同時受賞作。
文芸春秋